フォーブス ジャパン6月号の地方特集では、地方創生に詳しい17人のアドバイザリーボードの投票のもと、「スーパー地方議員・公務員」を選出した。そこで最多得票だったのが、鈴木英敬三重県知事だ。2016年の伊勢志摩サミットを招致したことが評価されたわけではない。
アドバイザリーボードの一人、XPJP代表の渡邉賢一は「サミット開催前、県が危惧していたのは、サミット後をどうするかでした。私はサミット準備期間中、鈴木知事の動きを目の当たりにして、従来型の首長とは違う、次世代型知事が登場したと思いました」と言う。
サミットの準備期間は、300日余り。県庁の不安は、世界の注目を地元の人々が実感できていないことだった。イスラム国のテロが世界を震撼させていたため、政府はセキュリティの関係上、開催地域の頭越しに準備を進行。地元には知らされない情報が多く、他人事になっていたのだ。
もうひとつの危惧が、「祭りのあと」だ。「伊勢志摩」の地名が世界に広まっても、それだけで経済効果は期待できない。祭りが終われば、残るのは虚脱感だけ。そこで知事は、ポストサミットを見据え、「県民巻き込み型」の陣頭指揮を執った。
「例えば、食の産地に知事自らが赴いて、現場の意見を聞き、その場でプロジェクトを決めていました。そして、帯同させた職員たちに指示を出す。海外輸出プロモーションなどがそうです。サミットのときに各国首脳が食べたものをPRするから、『サプライチェーンを整えておきましょう』と、ものすごい早さでPDCAを回すのです」(渡邉)
例えば、三重県は、尾鷲のブリ養殖をはじめ、タイ、カキなどの養殖が盛んだ。漁場はオートメーション化され、食品衛生管理の国際標準をクリアしていたが、流通は国内中心だった。そこで、サミットを機に一気に海外展開できるように、知事が事前にG7諸国の大使に面会。また1泊3日の強行軍でニューヨークに飛び、PRのプレゼンを行った。
「巻き込み型」が奏功し、県民から外国語ボランティアを募ると、200人の枠に5倍が応募した。県民の寄付や協賛金も約5億円に到達。県内900の企業と団体は、「伊勢志摩のビールラベルをつくろう」と提案するなど、県は一体化したのである。
すでにサミット前の段階で、外国人観光客の前年比伸び率は全国1位となり、開催前年の外国人観光客の数は全国4位になった。鈴木知事は経済産業省の官僚時代、農商工連携による地域活性化を担当している。その経験が生きたといえるだろう。
「別府愛」に火をつけた市長の約束
想定外の「住民一丸型」は、別府市の長野恭紘市長だ。15年に40歳で当選した市長が、「賭けに出た」と囁かれたのが、昨年公表の「遊べる温泉都市構想」である。温泉を遊園地化した「湯〜園地」をつくるという。公金を1円も使わずに、だ。
以前、大分県庁が作曲家の清川進也に依頼して作成したPR動画がある。女性たちが桶を手に、温泉でシン“フロ”ナイズド・スイミングをやるという、バカバカしさを究めた人気動画だ。長野市長は、清川に動画監修を依頼。温泉でタオルを体にまいた人々が、湯をかぶりながら観覧車やジェットコースターに乗るというPR動画を完成させた。