そして、実は、そうした無意識の「自己限定」は、世に溢れている。
例えば、社内での企画会議において、年配の男性上司が語る、次のような一言。
「ここは、君たち女性スタッフの、細やかな感性で、何か、良いアイデアはないだろうか……」
もとより、この上司には、悪意も他意も無い。しかし、こうした言葉が、その裏返しに、自分自身と周りの男性スタッフに、「男性には、細やかな感性が欠けている」という無意識の「自己限定」を刷り込んでしまっていることに気がつかない。
だが、改めて「ジェンダー論」を述べるまでもなく、すべての男性の中に「男性性」と「女性性」があり、すべての女性の中に「女性性」と「男性性」がある。
それゆえ、当然のことながら、男性であっても、「細やかな感性」を開花させていくことはできる。そして、周りを見渡せば、そうした男性は、決して少なくない。
されば、我々の才能や可能性の開花を妨げているのは、実は、「男性は、細やかな感性が欠けている」「女性は、論理的に考える力が弱い」「老人は、瑞々しさを失う」「若者は、思慮が浅い」といった「迷信」とも呼ぶべき「思い込み」であり、それによる無意識の「自己限定」に他ならない。
しかし、もし我々が、それが「思い込み」であり「迷信」であることに気がつくならば、そこから確実に、我々の中に眠る可能性が開花し始める。
そして、そのとき、「古い迷信」が消え去り、21世紀の「新たな常識」が生まれてくる。
人は、永き歳月を歩み、
人生の苦難を乗り越えていくほどに、
精神は、若く瑞々しくなっていく。
マイスキーのエピソードが教えてくれるのは、その「新たな常識」であろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)GACメンバー。世界賢人会議Club of Budapest日本代表。著書に『人間を磨くー人間関係が好転する「こころの技法」』他 tasaka@hiroshitasaka.jp