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2016.10.12 15:01

「明日、死ぬ」という修行[田坂広志の深き思索、静かな気づき]

Photo by ungtaman / Shutterstock.com

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経営の世界において、昔から語られてきた一つの格言がある。

経営者として大成するには、三つの体験の、いずれかを持たねばならぬ。戦争か、大病か、投獄か。

ここで投獄とは、文学者・小林多喜二が思想犯として逮捕され、拷問で獄死するような時代の投獄のことであり、この三つの体験は、いずれも「生死の体験」を意味している。

実際、戦後の優れた経営者を見るならば、例えば、伊藤忠商事元会長の瀬島龍三氏は、戦争とシベリア抑留11年を体験し、京セラ・KDDI創業者の稲盛和夫氏は、若き日に、当時は死病とも呼ばれた結核を患い、住友銀行元頭取の小松康氏は、戦時中に水兵として乗船していた巡洋艦那智が撃沈され、九死に一生を得た。

では、なぜ、経営者として大成するには、「生死の体験」を持たねばならぬのか。

それは、「生死の体験」を通じて、人間は、「死」というものを直視し、深い「死生観」を掴むからであろう。

では、「死生観」を掴むとは、いかなることか。

それは、人生における三つの真実を直視することである。

「人は、必ず死ぬ」「人生は、一度しかない」「人生は、いつ終わるか分からない」。その三つの真実である。

では、なぜ、この三つの真実を直視することが、経営者にとって、大成への道となるのか。

その理由は、その直視によって、我々に、三つの力が与えられるからである。

第一に、人生の「逆境力」が高まる。

「人は、必ず死ぬ」ということを直視するならば、人生や経営における最悪の逆境に直面しても、「命あるだけ、有り難い」という絶対肯定の姿勢で処することができる。そして、不運や不幸を嘆くのではなく、「この不運、不幸と見える出来事にも、何かの深い意味がある」と思い定め、すべてを自身の人間成長の糧として解釈する力が身につく。
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文=田坂広志

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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