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2016.08.31 12:00

薬価つり上げで製薬界炎上 エピペン問題に見る米医療制度の3課題


実は、エピペンの値上げは、必ずしも利益に直結してはいかなった。マイランは2013年、エピペンの販売個数と定価の上昇によって理論上では29%の売上増を達成できるはずだったが、エバーコアISIのアナリスト、ウマル・ラファットによると、実際の増加幅は15%にとどまった。2015年には定価が31%値上げされ、販売個数も増加したにもかかわらず、売上は増加しなかった。その原因は「値引き」だった。

これは値上げを正当化する理由にならないが、PBM会社に対する払戻金を確保するために製薬会社に定価の値上げを強いる現在の制度には問題がある。もちろん、実勢価格を公表すれば、交渉はより難しくなるし、価格の下落につながる可能性もあるため、製薬会社はこれを避けたいのが本音だ。だが、製薬会社は覚悟を決め、実勢価格を公表するべきだ。価格公表を渋るのであれば、議会がそれを強制するべきだ。

FDAの危機感不足

米食品医薬品局(FDA)は現在、薬剤への認可を出すにあたって、その安全性や効能のみを吟味し、価格についての判断は下さない。これは一般的に言って良いことだ。安全で効能が大きい薬が「値段が高過ぎる」という理由で認可されなかったり、危険な薬剤が「安価だから」という理由で認可されたりするような事態は、誰も望まないだろう。

だが、価格が大幅に上昇している医薬品の代替となるジェネリック医薬品(後発薬)について、FDAが認可手続きを迅速化することは可能だ。FDAは既に、特定の薬剤が不足した際にこうした措置を取っており、過去には未認可の後発薬を国外から輸入したこともある。後発薬の迅速な認可や一時的な輸入措置が行われていれば、シュクレリによるダラプリム値上げ騒動もすぐに終息に向かっていたに違いない。

イスラエルの製薬会社テバは、エピペンのジェネリック版の認可申請をしている。一方でFDAは、サノフィによる類似製品の販売を中止させた。効能のない製品を認可するべきではないものの、FDAはマイランによるエピペン値上げを深刻に受け止め、こうした代替医薬品の認可を急ぐべきだ。
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編集=遠藤宗生

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