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2016.08.31 12:00

薬価つり上げで製薬界炎上 エピペン問題に見る米医療制度の3課題


薬価交渉で蚊帳の外の米政府

医薬品の実勢価格の値上げ幅は、保険会社とPBM会社の影響力が徐々に強まっていることを背景に、既に減少に転じている。この影響力は残念ながら、保険会社が特定の医薬品への支払いを拒否するという形で行使されることが多い。被保険者は、医薬品の値下げと引き換えに、医薬品の選択肢の減少という代償を支払わなければいけない。

こうした交渉で蚊帳の外となっているのが、米政府の高齢者・障害者向け公的医療保障制度「メディケア」だ。もし多大な影響力を持つメディケアが薬価交渉に参加できるのであれば、製薬会社の価格設定に大きな影響を与えることが可能かもしれない。だがそのためには、メディケア側が「ノー」と言える必要があり、これは政治的な理由から難しいだろう。

政府に交渉力を与えるような仕組みを新たに構築することは可能かもしれない。例えば、大規模な国営基金を設立し、自由市場の法則が適用されなくなった医薬品の値下げ交渉と、メディケアや民間保険会社に対する医薬品転売を担わせる、という方法がある。私は信頼できる専門家らにこのアイデアを提案したが、彼らの意見は「うまくいくケースもあれば、いかないケースもあるだろう」とのことだった。それでも一考に値するアイデアだと、私は思う。

最終手段としては、医薬品の価格を法律で制限する方法もある。ただ、この方法のリスクは高い。製薬会社に支払われる金額が多ければ多いほど、革新的な新薬が多く生まれる。例えば、がん治療の分野では、薬価が急上昇するにつれ、製薬会社による新薬開発への投資が加熱し、遺伝子治療薬による免疫療法などの劇的な進歩につながっている。

私たちが金を支払うべきなのは、エピペンの宣伝や、マーティン・シュクレリの新会社設立の野望に対してではなく、本物のイノベーションに対してだ。米国では今、製薬会社に何を求めるのか、そして、医薬品にどれほどの対価を払うべきなのかを問う議論が必要とされている。

編集=遠藤宗生

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