経済・社会

2016.05.23 10:00

過疎、高齢に悩む町長がとった「刑務所誘致」という秘策


受刑者が「またいつか帰ってきたい」

年配者の中には、刑務所誘致に最後まで悪いイメージを捨て切れなかった人もいる。そんな地域住民と訓練生(同施設では受刑者のことをこう呼ぶ)の「心の壁」が取り払われるきっかけとなったのは、年1回、あさひ促進センター内で開催される運動会だった。毎年、地元民100人が招待される。

住民とともに招かれた田村も、訓練生に対する見方がガラリと変わったと話す。

「みんな本気でやるんです。手を抜く連中がいない。そのひたむきさを見て、心の壁が消えた」

訓練生への理解が深まったことで、地域住民からの申し出で、日本の矯正施設では初めて文通プログラムが実現した。ペンネームでやりとりをし、互いのプライベートには踏み込まないのがルールだ。

開所翌年から文通を続ける70代女性の話だ。

「返事が遅いと心配になったりして。文通で心を通わせた7人の訓練生のことは、今でも気になります。もう自分の子どものような存在ですね」

郊外で茶畑の農作業を指導する佐々木玲慈の訓練生への眼差しも温かい。

「(書の詩人の)相田みつをじゃないけど、訓練生も『にんげんだもの』。土を触って、昔、おばあちゃんの家で遊んだ記憶が蘇ることもある。土は初心に立ち返るきっかけになると思う」

30代前半の訓練生は、地域への感謝をこう示す。「指導員の方に、ここでは雑草じゃなく野草と呼ぼうと言われた。自分たちに対するエールのように思えた。またいつかこの町に帰ってきたい」

一昨年には、あさひ促進センターを出所し「地元の人にお礼が言いたい」と集まった元訓練生5人と地域住民でシンポジウムが開催された。

刑務所にとって最大の評価基準は、再犯率の高低だ。開所間もないこともあり、まだ参考程度にしかならないが、あさひ促進センターの2年以内の矯正施設への再入所率は6、7パーセント。これはA指標の受刑者の全国平均2ケタを大きく下回る。

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地元の指導員のもと、茶畑で郊外作業をする訓練生たち。逃走事件は、これまで0件だという。

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食堂で働く民間企業グリーンハウスの今宮喜徳さんは「きれいな建物でびっくり」と話す。

local idea

中村 計 = 文 東海林巨樹 = イラスト

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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