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2016.05.24

コマツ、SBプレイヤーズ 課題山積の地方を救う「大企業」の知恵

ICT建機のショベルカーが残土を台形にする。若い女性でも法面(のりめん)形成を熟練なみに実質12時間でできた。ブルドーザーの排土板(ブレード)を上げ下げして凸凹地面を平面化する作業も、自動制御が行う。(photograph by Peter Stember)


お金をどんどん回すには

人手不足の次は、お金だ。04年冬のこと。ソフトバンク社長の孫正義は、家族と岩手県にスキーに出かけると、岩手県知事だった増田寛也に遭遇した。のちに地方創生の旗振り役となる元総務大臣だ。増田は孫に地方経済の窮状を訴え、こんな願い事をした。

「経営難の岩手競馬をネットの力で何とか救ってもらえませんか」

本来、地方競馬の収益は自治体の財源として地域振興に役立つはずだ。ところが赤字に陥り、00年代から各地で競馬場の廃止が相次いでいた。当時、岩手競馬の累積赤字は100億円超。中央競馬と違い、地方は興行エリアが小さく、打開策を見いだせないでいたのだ。

東京に戻った孫は、4〜5人の社員と毎週、額をつき合わせて戦略を練った。そのひとりで、05年に設立されたソフトバンクの子会社SBプレイヤーズの社長となる藤井宏明はこう言う。

「当時は携帯事業に入る前で、Yahoo!BB事業以外に特に大きな事業もなく、コンテンツ系のサービスに注力している時期でした。このとき、孫が明確に言っていたのが、『目先の収益よりも永続的なビジネスに取り組むように』です」

彼らは地方競馬全国協会の傘下企業が運営するD-netの在宅投票事業を取得。このシステムは実質的な赤字運営だった。

そこでインターネットサービスを得意とする彼らが、ネットで馬券販売を行い、レースのブロードバンド中継を行う。そうしてファンを掘り起こして、収益を全国の競馬場に回していく仕組みをつくることにした。

その仕組みは、税の再配分に近い。「まず、馬券の販売手数料を提携した全国の主催者から徴収します。そこで出た利益を、経営判断をもとに再生が必要な競馬場に投資していく。同時に、馬券を売サイトの中に観光コンテンツを入れて、人も誘導することにしました。競馬場だけでなく地域そのものを浮揚させようと思ったのです」

馬券とその販売サイトを使った、人と金の再分配と循環。「オッズ・パーク」と呼ばれるサイトは、のちに、競輪、オートレースなど64の公営競技に拡大していく。

06年、東京で行われた地方競馬関係者が一同に集まる会議の後、藤井に「お話があるんですが」と声をかけた人物がいた。北海道「ばんえい競馬」の幹部だ。世界でも珍しい、騎手が乗った鉄そりを引っ張るレースである。彼は藤井と食事に行くと、「垂れ流している赤字を止めるための提案をしてほしい」と依頼したのだ。

藤井が振り返る。

「社内で協議して、これは無理だから断ろうと思ったのですが、地元の期待感がやはり大きいのです。最終的に赤字を我々がすべて引き受けて、オペレーションから行うことにしました。人件費、賞金、出走手当を削減する一方で、ナイターを開催したり、地元の記者さんたちと懇親会を行い、細かく情報を出すようにしました。例えば、NHKの天気予報で『初霜が降りました』と報じるときは、背景にばんえい競馬の映像を流すのです」

初年度から来場者数が飛躍的に増えた。だが、5年後、「赤字でも引き受けたい」という地元の業者が現れたため、SBプレイヤーズの業務は終了した。実は、この5年間の仕事が意外な展開をもたらす。

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2005年、ソフトバンク孫正義(左)と、岩手県知事(当時)の増田寛也(右)の岩手競馬業務提携の記者会見の様子。

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騎手が乗った鉄そりを引くばんえい競馬レースの様子。


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藤吉雅春 = 文 ピーター・ステンバー = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.22 2016年5月号(2016/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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