「付加価値のあるいい商品づくりや差別化を図ることがビジネスの基本でしたが、いまではベンチャー企業も大手企業も、地域の困りごとを把握して、それを解決するビジネスが主流になっています。その方がマーケットとして確実だからです」
全国で新しいビジネスの育成を支援する、「コミュニティビジネスサポートセンター」の代表理事、永沢映はそう説明する。
では、救いようがないほど重くて暗い課題は、どうしたらよいのか。
2000年代初め、「ダントツ経営」「ダントツ商品」でV字回復したことで知られる建設機械メーカーのコマツが直面したのは、労働力不足がもたらす悲惨な現実だ。
大橋徹二は、13年に社長に就任すると、顧客である全国の建設会社に挨拶をして回った。そこで聞こえてきたのが、「なにしろ、人が集まらない」という悲鳴である。東日本大震災の復興に加えて、東京オリンピックの開催決定で労働力が不足していることは知られているが、そもそも00年代に公共事業が削減されたことで、建設業の従事者がこの15年間で約500万人から350万人まで激減している。
大橋の説明はさらに衝撃である。「現在の350万人のうち、55歳以上の方が100万人を超えています。15年後、彼らは70歳ですから、ほとんどがリタイアされています。2030年、若い人が入らない限り、この国では土木建設業が成り立たなくなるのです」
以前から「3K」職場として若者が入りたがらないうえ、少子高齢化で熟練技術者の技術伝承も困難となっている。「老朽化したインフラ設備の更新が喫緊の課題になっていますが、それに加えて集中豪雨が増えて土砂崩れや洪水が起きています。しかし、山間部では災害が発生しても、復旧作業をする人がいなくなっている。土建会社があっても、社長が60歳で片腕の社員が50代、奥さんが経理という小規模で、高齢化したところが多いのです」
実は土砂災害が増えているのは、林野の整備が滞っていることも原因だ。新築住宅の着工件数が減っていることや人手不足もあり、伐採の適齢期を超えた杉が、全国を覆う人工の林野で伸び放題になっている。間伐も行われないため、地面まで日光が届かず、草が生えないので地盤が脆弱化。老齢化した杉の根も弱まっており、山が崩れやすくなっているのだ。
建築用木材はコストの安い輸入に頼りがちのため、林野はさらに手つかずになり、土砂災害を誘発。復旧工事を行おうにも人手がないという負のスパイラルに陥っている。「安全な機械や品質のいい建機を提供しても、お客様が本当に困っていることに応えていなかった」と、大橋は悔やむ。日本が直面している課題は人命にかかわるほど深刻なのだ。