テクノロジー

2016.03.04 10:31

日本人起業家が見たシリコンバレーのリアル


会いに行っても話を聞いてもらえない

高橋は慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスでコンピュータ関連の博士号を取得したという元研究者。博士号取得後に、研究者以外の道を歩みたいと考え始めていたときに、東京である起業支援プログラムに参加したことが、シリコンバレーでの起業を志すきっかけとなった。

その後、サンフランシスコへの一人旅などを経て、2013年に今度はシリコンバレーで開催されている起業支援プログラム「500 Startups」に参加。約500万円の出資を獲得し、現地でアップソーシャリーを登記した。

アメリカで起業するにあたって、高橋は「不安に思ったことはない」ときっぱり言う。「シリコンバレーでやっていくのは大変だぞ、と知り合いのアメリカ人からは言われていました。でも何が大変かはわかっていなかったんです。顧客を獲得するのに血のにじむような検証の努力が必要だとわかってなかった。

たとえばフィードバックをもらおうと思って誰かに会いに行っても、まず話を聞いてもらえない。菓子折りではなく、もっと持続的な関係につながる“手土産”が必要だったんです。つまり、こいつは価値のある人間だからフェイスブックの友達になりたいって思ってもらえるような話ができないといけない。ミーティングでも冒頭から相手をひきつけるような話し方ができなければ、10分くらいしてメールを送り始める始末。やればやるほど、自分がわかっていなかったことに気づきましたね(笑)」

日米での人材の差に驚かされることもある。

あるとき、知り合いのエンジニアが働くスタートアップのウェブサイトがあまりに遅く、またプロフィールの設定が複雑な仕組みで動いていることを知り、その知り合いに「なぜ、そうなっているのか」と聞いたことがある。すると、彼は「もう少しして資金が集まってサーバーを増強すれば速くなるから気にする必要はない。それにその機能は優先度が低いから、今はユーザーに対する価値を提供することに専念したい」と答えたそうだ。

「会社の成長をビジネス視点で考えられるエンジニアが多いのにカルチャーショックを受けました。スタートアップは人数が少ないので、エンジニアがそういうことも考えて動けると成長のスピードが上がりますよね。よく日本のエンジニアも技術力では負けないというけど、シリコンバレーは普通のエンジニアのマインドセットからして違うと感じました」

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増谷 康 = 文 マイケル・ショート = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.20 2016年3月号(2016/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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