一方で、比較的軽量級の香港経済も、世界に深く広く張り巡らされたコネクションの力で、重量級のパンチを打つことができると、共同研究機関である香港大学、コンサルティング会社Innofoco、調査会社Compassは指摘している。また、この研究が挙げる香港の強みには、自由経済、効率性の高い中国本土の玄関口にある金融・貿易・ビジネスのハブとして発揮している地域リーダーシップ、起業家精神を尊ぶ文化、しっかりした法体系、知的資産保護などがある。
さらに、ここ2年間のスタートアップ企業の復興により、香港はいまや起業の世界的中心地としての様相を強めており、Compass社による急成長ハブのランキングで世界5位につけている。
今回の研究では、イスラエルやシンガポール同様、香港では近年、諸外国から押し寄せた大量のタレントを持った移民が香港を活性化させてきたと指摘している。しかし、こうしたことは何度も繰り返されるものではないし、それ自体は非常に残念なことではある。しかし、今日のイノベーションは、国境を越えてアイデアとコラボレーションが交わされた結果として起きていると、この研究では強調している。ここでさらに留意すべきは、イノベーションがどこでマネタイズされるのか、という点である。香港が他から一歩抜きんでた存在になるためには、テクノロジー系の人材だけでなく、デザイナーや商品開発、マーケティングの専門家、新製品・サービスを商品化できるプロフェッショナルが必要になってくるのだ。
資金供給側の不足については、最近の香港では質の高い投資案件の最小必要量が増加していることから、解消に向かっていることは確かだ。中国のシリアル・アントレプレナー(連続起業家)や、個人資産家のファミリーオフィス・第2世代などが参加しているエンジェル投資家のコミュニティは過去18か月で大きく成長している。
すべてのスタートアップ・ハブが、世界的イノベーションの主戦場であるシリコンバレーのようになれるわけではない。多くのハブでは、規模や起業能力が十分ではない。そこでこの研究が描く香港の処方せんは、利益を最大にし、競争を避けることができる最良のニッチ市場を見いだし、ビジネスイノベーションの中においてのポジションを固めてゆくというものだ。有望分野としては、金融サービス、サプライチェーン・マネジメント、そしてハードウエアのハブである深センや珠江デルタに近接しているという立地を活かしたIoT(モノのインターネット)などがあげられる。香港はまた、デジタル知識の高い消費者が多いことから、新しいアイデアのテストマーケットや先行販売の場としての強みを発揮していくこともできるだろう。
香港のスタートアップ・ハブとしての潜在力を発揮するためのさらに具体的な施策としてこの研究では、香港にもっと多くの国際的なアクセレレーターを設立することを提言している。香港にはすでに、DBSやAIAといった大手金融が運営するものなど、10か所のアクセレレーターやインキュベーターが存在している。
研究は、香港ではかつての”なせばなる精神”や、とがった革新性が失われてしまったとの認識が広がっていると幾分重いトーンで結論づけている(もっとも、最近の起業家向けイベント”StartMeUpHK”を見る限りでは、そのような証拠はないようにも思えた)。
経済成長のエンジンとしてスタートアップを活性化していくには時間がかかる。香港がアジアのスタートアップシーンの中核になるという目標を達成するには、投資家・政府・企業・教育機関など、社会全体がマインドを変えていかなければならないのだ。