高橋雄介(35)が、海から吹きつける風を全身に受けながら、お気に入りの国産ロードバイク「アンカー」でゴールデンゲートブリッジを対岸へと渡り、やがて目の前に現れる急坂を全力でこぎ始めると、自分を追い越そうとするライダーたちに遭遇することがある。
「速いね〜」と声をかけると、「おまえもな!」。話を聞くと、グーグルやリンクトインなど有名スタートアップの社員だったりすることも多いという。
渡米から3年。サンフランシスコでモバイル関連のスタートアップ「AppSocially(アップソーシャリー)」を経営する高橋は、シリコンバレーの強みを「ビジネスと街が一体化している」ことにあると語る。
「たとえばサイトグラス(有名コーヒーチェーン)に行って列に並ぶと、すぐ前に有名なスタートアップの社長や投資家がいて、その場でプロダクトやビジネスの話ができたりする。面白いアイディアがあれば、100万ドル(約1億円)くらいポイと出せる人がそこら中にいるんです。こっちはスタートアップのエコシステム(生態系)がすごいとよく聞くけど、まさにこういうことかと。ビジネスのヒントやノウハウが、街の中に転がっているんです」
だからこの場所にいる価値がある、と高橋は考えている。
メディアで報じられることは少ないが、テクノロジーの中心地、シリコンバレーに渡って日夜、奮闘する日本人の起業家たちがいる。中国や台湾、韓国など他のアジア諸国に比べると、その数は圧倒的に少なく、成功していると呼べるスタートアップは今のところほとんどない。だが彼らは先駆者となることを目指して、あえて“メジャー”を挑戦の舞台に選んだ。彼らを引き付けるものとはいったい何だろうか。