サンフランシスコの中心街にある一棟の目立たない雑居ビル。エレベーターで7階に上がると、広いフロアではラフな格好をした多くの若者たちがパソコン画面とにらめっこをしていた。
「こいつはオブジェクトだから......」
「イベントハンドラはこういうふうに書けばいいんじゃないかな」
真っ黒い画面にはまるで暗号のような意味不明なプログラムがぎっしりと書かれている。
ここは、2012年末に開校したプログラミング・スクールの「ハック・リアクター」。わずか3か月でプロのソフトウェアエンジニアを育成すると評判の学校だ。
授業は朝から晩まで1日11時間という超過密スケジュール。それが週6日、12週間続く(中間に1週間の休みがあるため、プログラムの合計期間は13週間)。そして驚かされるのは、授業料の高さ。なんと3か月で1万7,780ドル(約210万円)。ここには食費や宿泊費などは含まれていない。それでも同校には応募者が殺到しているという。
アメリカでは最近、このような「短期集中」を特徴とするプログラミング・スクールが急増中だ。アメリカ海軍の新兵トレーニングになぞらえて「ブートキャンプ」と呼ばれる。ハック・リアクターによると、こうしたブートキャンプはすでに全米で100校ほどあるとみられている。
急増の背景には、アメリカにおける深刻なエンジニア不足の問題がある。米労働省・労働統計局の試算によると、ソフトウェアエンジニアの雇用は、14年からの10年間で約19万人増加すると予測されている。その不足を補うため、オバマ政権は昨年3月、エンジニア職への雇用を増やすための施策を発表。大学などの学位認定機関だけでなく、こうした民間のブートキャンプやオンライン教育プログラムなどにも協力を呼び掛けているのだ。
中でも、ハック・リアクターは「ブートキャンプ界のハーバード」を標榜し、高い人気を集めている。学校の説明によると、応募者のうち入学を許されるのはわずか15%という狭き門だ。
それでも同校を卒業すれば、ソフトウェアエンジニアとして明るい未来が約束されている。卒業後3か月以内の就職率は99%、そして初年度の平均年収は10万5,000ドル(約1,300万円)に上る。卒業生は、グーグルやフェイスブックなどの大手から躍進中のスタートアップまで引く手あまただという。
授業料について、共同創業者のショーン・ドロストは「1万7,780ドルは高いと思うかもしれないけど、卒業生は転職前に比べて、所得が平均で5万2,000ドル上がっています。だから、実はとてもお得なんです」と自信たっぷりに語った。