COP21パリ会議、台頭するインドとの協力

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パリで開催されている第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)を巡る報道がインドと米国で極端に違うことに読者が混乱したとしても無理はない。風刺画家も含めた米国の報道機関は、インドを強力かつ有効な合意を形成する上での良くて「ハードル」、ひどい場合は「スポイラー(台無しにする人)」と強調。一方、インドの報道機関は、米国を国内では一層の排出量削減に消極的ながら貧困国には削減を厳しく迫り、途上国が気候変動に対応するためのさらなる資金援助には躊躇し、将来的な環境へのダメージについての義務に関する提案には抵抗する「ごろつき」と描写していた。対照的に、両国とも自国を「国内外で気候変動を抑制するためのコンセンサスを実現するため、重要なステップを進めている」と認識している。

週末まで続く会議からは、台頭するインドが世界における自国の役割についてどのように考えているか、2、3の所見を示すことができる(訳注;会議は12日に閉幕。本記事は9日にForbes.comに掲載されたもの)。
まず、インドの経済規模は昨年、世界のトップ10の仲間入りをしており、向こう数十年間の間に10兆円程度となる可能性があるにもかかわらず、同国は国際的な交渉の場において堂々と途上国を自認している。これは紛れもない事実だが、繰り返す意味のあることだ。インドの発展の規模が、地球上全ての国の成長を矮小(わいしょう)化するものであることには疑いも議論の余地もない。同時に、インドが世界に与える影響の大きさ、特に経済が成長し続ける中で環境に与える影響の規模は、インドが負う責任を巨大なものにしている。インドが現在抱えている大気汚染問題が物語るように、規模が全てなのだ。中国同様、インド都市部の住民は既に急速な経済成長に伴う犠牲で苦しんでいる。昨年、WHOはデリーの空気が世界で最も汚染されていると発表した(パリでは先週、交渉担当者が括弧の中に忍ばせたが、自国インドではデリー高等裁判所がデリーでの生活を『ガス室で生活するようなもの』と指摘している。間違いなく、いつものように経済界に対する断罪だ)。

2番目に、いくつかの記事ではインド(だけ)がパリにおける会議の成否の前に立ちはだかっているというような印象が示されている。これはジョン・ケリー米国務長官がインドを「難題」と表現したことによって強調されたが、インドは孤立状態からはほど遠い状況にある。気候の公平性、もしくはインドのライターが「カーボンスペース」と呼ぶ主要課題に関して、インドは懸念を抱く77カ国グループから広く支持を得ている。インドとその他多くの途上国は近ごろ、先進国がこれまでに作り出してきた問題を解決するたにガス排出量を削減し、1人当たり排出量の割り当てレベルを西側諸国に比べて低い水準とするよう求められている。気候の専門家Navroz DubashとRadhika KhoslaがTime.comで指摘しているように、産業革命以降全世界で排出された温室効果ガスに占める国別の割合で、米国が27%を占めるのに対してインドはわずか3%に過ぎない。インド国民のうち3億人超は依然として基本的な電力を利用せずに生活しており、インドは膨大なインフラ需要に直面している。インドが、「国内電力をより高価なエネルギー源に転換する前に、最低コストでの開発をさらに進める必要がある」と主張するのは理にかなっている。

3番目に、インドは他の多国間協議を紛糾させる「ノー」の力を行使することで有名だ(2008年のドーハ開発ラウンドや、2014年7月にバリで開かれ、急きょ物別れに終わったWTO貿易円滑化協定の会合などを思い出してもらいたい)。しかし、インドは自国のエネルギー安全保障と経済的な利益に合致する方向で国際的な方針を形成すべく、積極的な提案を携えてパリに現れた。太陽光発電に熱心に取り組んできたナレンドラ・モディ印首相はフランソワ・オランド仏大統領と共に、新たな「国際ソーラーアライアンス」を始動させた。宣言では、「持続可能な発展とユニバーサルエネルギーへのアクセス、エネルギー安全保障」と共に「全ての人にとって安価な、クリーンかつ再生可能なエネルギー」の創出の重要性を強調している。インドの太陽光発電の可能性、2022年までに太陽光発電の設備容量を100ギガワットまで急拡大するという既存の公約を考慮すると、インドはこのイニシアチブによって、国内で既に実現を公約したエネルギー政策を巡り、国際的なリーダーとしての役割を担うことになる。ソーラーアライアンスはより貧しい国のためにソーラー技術のコストを引き下げる方法を模索することで、国際的な投資の約束をより幅広く呼び掛けると共に、ソーラーに関するインドの強みを活用することになる。

最後に、上記と関連することだが、パリ訪問中のインド代表団は国際的な交渉を危機に直面させるどころか、合意に前向きな姿勢だとの報道がある。インドのプラカシュ・ジャバデカル環境相は報道陣に対して、「インドはパリでの最終結論を楽観視している。インドはこの問題の一部ではないものの、解決に向けたファシリテーターであることを世界に示し、柔軟に対応していく」と述べている。このスタンスはインドがこれまで多国間交渉の場で取ってきた「一つの問題で拒否権を行使する」というアプローチとは全く異なるものだ。同相の発言とは対照的に、インドの商工相は2014年7月、7カ月前に署名した貿易円滑化協定の採択を拒否。「インドが『脇に追いやられている』と感じていた話題を議論させるため、最も使える道具(拒否権)を用いる戦略」と説明していた。

週末まで続く交渉では、「単なる均衡勢力ではなく大国になりたい」というインドの熱望が、譲歩に向けた意欲をどのように形成していくかを見ることになる。今後はまた、「国民の懸念を解消する生産的な成果をもたらしつつ、より大きな国際的目標の達成へと前進する」というインド政府の新たなアプローチがどれほど有効なものかを目にすることとなるだろう。

編集=Forbes JAPAN 編集部

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