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世界37カ国、700万人が愛読する経済誌の日本版

「エムスクエア・ラボ」を創業した加藤百合子。(フォーブスジャパン10月号より)

「取引」から「取り組み」へ、農業を変える。

やっと成功事例が生まれ始めた。
地方農家と都市部のレストランを結びつける「ベジプロバイダー」。現在、対象農家は90軒、取引先が50軒。会社は、卸・販売価格のなかから手数料をもらう。しかし、加藤百合子の関心は、手数料の多寡ではない。

「農業経営の最大のリスクは、市場相場に翻弄されることで、優れた青果物をつくる農家が、それに見合う価値を手にできていません。一方レストランでは、おいしい野菜は多くのリピーターを生む。収益安定と商売繁盛のWIN-WINの関係をつくる。“取引”ではなく“取り組み”にしたいのです」
 
農家と買い手の信頼構築を重要視し、加藤は農家の熱い思いを買い手へ、買い手からの要望を農家へ伝える。シェフがお客さんと一緒に農家を訪れることもある。自分がつくった野菜を食べている人たちと出会うことの喜びは格別だ。
 
加藤が力を入れるもうひとつの取り組みが「フィールドサーバ」(写真)。畑に各種のセンサーを配置して優秀農家の耕作データを集め、ノウハウを見える化する。各地の天候や土壌に合った最適な栽培法を“テンプレート”にする。この事業の意義を確信させてくれたのが「海パン父さん」。あるメロン農家の主人で、海パン一丁で作業する。

「どうしてと聞いたら、『メロンと会話するためだ』って。驚いたのは、過去のデータからフィールドサーバが警告を発しそうになると、必ず海パン父さんが水まきに現れるのです。人間の長年の知見とは本当に素晴らしいと感動するとともに、経験知をデータ化できたのはうれしかったですね」
 
東大農学部では農業機械の研究に没頭し、英国留学後にはNASAのプロジェクトにも加わる。キヤノンで半導体検査装置の開発、そして夫の親族が経営する会社では減速機を開発してきた「工学女子」。そんな加藤がなぜ農業だったのか。

「親として子どもたちに何を残せるかを考えると、工業の世界では私がしていることは見えません。でも農業ならば、身近にあるものが商品に変化していくのを見せられます。『いまのママの仕事は?』と聞けば、『おいしいかおいしくないかを極める仕事でしょ』と、ストンとお腹に落ちています」
 
農業そのものではなくシンクタンクにしたのは、「母親業もやりたかったので、育児をしながらひとりで農業をやるのは物理的に無理だと思ったから」。

背伸びをせず、自然体。
それでいて着実にニッポン農業の構造にメスを入れている。

船木春仁 = 文 岡田晃奈 = 写真

 

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