市場はいつも正しい、という決まり文句があるが、この結論に至るのに時間がかかることもある。極端なことが起こっている時(いまはまさにそんな時だ)、人はすぐに新たな状況に適応できないものだ。市場は人間で構成されているので、何が起こったのか、何が起こっているのかが理解され、それが株価に反映されるのにも、時間を要することがある。
これに関して参考になるのは、精神科医エリザベス・キューブラー・ロスが提唱した「死の受容の5段階」だ。つまり、人は死にあたって「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」という5つの段階を経るという説のことだ。
X(旧Twitter)の混沌をほんの少しのぞいてみるだけで、否認と怒りが渦巻いているのがわかる。「もしも」「仮に」「だとしたら」という、取引の声も増えてきている。筆者が見るかぎり、多くの人々は、今いったい何が起こっているのかを把握できていないだけでなく、現在の状況がもたらした、明白であからさまな帰結に順応できてもいないようだ。
米国の資本基盤を破壊することは、何者をも「再び偉大に」などしないだろう。しかし、現状にはまだ、結果に対する「否認」が、ある程度存在しているようだ(この結果はやがて、株価や株価指数に反映されていく)。
問われていることはシンプルだ。現在のトランプ政権は、自身の革命的政策について本気なのか? そして、完全にやりとげるつもりなのか?
徹底的にやるだろうと、筆者は考えている。だから適応するしかない。
現在の米国市場のチャートは、市場が壊滅的な状況に陥り、その頑健性のレベルに──もっと正確に言えば「頑健性の欠如」のレベルに──順応した場合のイメージをつかむことができる。
英国市場は現在、コロナ禍前の暴落の水準に戻っており、市場が崩壊した場合に何が起こるかの的確な近似値を示している。
現状になる前、米国の株式市場の規模は50兆ドル(約712兆円)を超えていた。その25%が一瞬にして消し飛んだのだ。現段階ですでに、これはまぎれもない経済的大災害だ。
最悪の事態はこれからやって来るのだろうか? 「これ以上」が来るとしたら、その影響は想像することさえ困難だ。