恋人と別れ、完全に吹っ切れるのにどれくらいの時間が必要だと思うかを10人に尋ねると、おそらく10通りの答えが返ってくるだろう。数カ月と言う人もいれば、数年と答える人もおり、中には数日と言う人もいるかもしれない。また、世の中には関係が続いた期間の半分くらいの時間がかかるという俗説があるが、それを強く信じている人も少なくない。
だが、専門誌『ソーシャル・サイコロジカル・アンド・パーソナリティ・サイエンス』に2025年3月に掲載された研究で明確な答えが示された。
研究者のジア・Y・チョンとR・クリス・フレイリーは300人以上を対象に、元恋人への気持ちが完全に冷めるまでに実際にどれくらいの時間がかかるのかを調べた。その最終結果は、驚くべきものだった。
研究によると、元恋人への想いは4.18年が経過してなお半分しか消えていないという。言い換えれば、元恋人への想いが完全に吹っ切れるには平均約8年もかかる可能性があるということだ。
研究論文の著者らによると、この結果はさまざまな要因の影響を受けている。だがほとんどの場合、8年という期間は愛着スタイル(人間関係の築き方の傾向)と元恋人との継続的な接触という2つの要因の影響を最も強く受けているという。
もしあなたが他の多くの人々と同様にこの結果にショックを受けている(あるいは検証済み)なら、あなたは間違いなくひとりではない。だが、驚くべき数字にもかかわらず、この調査結果は愛や愛着、別れに関するより広範な研究に照らせば極めて理にかなったものだ。
8年もかかるのには、主に3つの理由がある。
1. 感情の刷り込み
多くの人にとって、恋愛の経験は生涯にわたって神経学的にも感情的にも影響を与える。今は亡き人類学者ヘレン・フィッシャーが筆頭著者として2005年に発表したfMRI(機能的磁気共鳴画像法)を使った有名な研究によると、少なくとも脳にとって恋愛は感情的なものではなく、主に動機づけられた状態だと考えられている。
オキシトシンやドーパミン、ノルエピネフリンといった神経伝達物質が分泌され、それぞれが愛着や報酬の感情を刺激する。特にドーパミンの分泌は、薬物中毒の症状と似た神経学的影響をもたらし得る。同様に、コルチゾールとセロトニンのレベルは下がり、ストレスの減少と強迫観念の増大につながる可能性がある。
この点において、脳は愛を感情というよりも動機づけの状態とみなすため、愛を維持するためなら何でもするように促す。これらの神経伝達物質の影響で脳の機能そのものが変化するため、恋愛が人生のすべてで唯一の目的であるかのように感じられる。そうして、関係が破局を迎えると打ちのめされたような気持ちになる。
この状態を、失恋として片づけるのは間違いだ。愛は脳の報酬系に影響を与えるため、禁断が心理面に及ぼす影響と考えるのが適切だろう。