Forbes JAPAN 2025年5月号は「新・ヒットの研究」特集。世の中で今、注目されている商品には、最先端のエッセンスが詰まっている。爆発的ヒット作の徹底分析と、次に来る消費トレンドの予測を通じて、これからのヒットの法則を探った。
「人間の闘鶏」と呼ばれ、禁止運動も起こされたUFCを世界的なブランドに変えたデイナ・ホワイトCEO。彼のアプローチは従来の経営者には想像できない、常識に反するものだった。その背景にある考えとは。
米ラスベガスのT-モバイル・アリーナで開催されたUFC310で、トンネルから出てきたスーツ姿のデイナ・ホワイトCEO(55)は勝者のように迎えられた。総合格闘技「UFC(ジ・アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)」のCEOである彼が、選手たちに報酬を支払う立場であるにもかかわらずだ。ファンは彼の名前を叫び、ハイタッチを求め、スマホで自撮りするために身を乗り出す。あるファンは「あんたは世界最高の男だよ!」と彼にほえた。
総合格闘技(MMA)はフルコンタクトのコンバットスポーツで、ボクシングからブラジリアン柔術まで幅広い格闘技の使用が認められている。ホワイトは MMAを世界的な現象にし、UFCを巨大な組織に育てた。2024年の収益は推定13億ドルに達し、利益率(EBITDA)はほぼ60%である。その過程で、彼は金網で囲まれた八角形の試合場 “オクタゴン” に上がるどのファイターよりも有名になり、フォーブスの推定では6億ドル以上の純資産を築き上げた。
「人によく、『これを最初からイメージしていたのか。 こんなに大きくなると考えていたのか?』と聞かれるんですよ」とホワイトは語る。
「答えはいつも同じです。『イエス』ですよ」
今日、テレビ局や動画配信プラットフォームは、UFCの放送権を巡って競っている。19年にESPNと締結された契約では、番組放送権に対して年間3億ドル、ペイ・パー・ビュー放送権に対して推定2億 6000万ドルが支払われた。ワーナーブラザース・ディスカバリーやネットフリックスも候補に挙がる次回の契約では、合計で年間9億ドルを獲得するとの予測もある。
さらに、UFCはスポンサーシップ、 ライブイベント、ライセンス供与から年間4億ドル以上を稼ぎ出している。収益性も高く、23年の売上高13億ドルに対してEBITDA(利払い前税引き前償却前利益)は7億5500万ドルである。
その間、ホワイトは自身の好戦的なイメージでUFCを色付けている。ラスベガスの最新鋭施設「スフィア」でイベントを開催するために通常予算の10倍の費用を投じたり、トランプ大統領を支持する投稿を削除するよう求めたスポンサーを批判したりすることは、彼にしかできないことだ。しかし、ホワイトは「自分の人生とキャリアのなかで、スポンサーと足並みをそろえたいという段階にいる」と明かす。