2024年4月20日の午後4時20分、マイク・タイソンは自身の大麻ブランド「Tyson 2.0」のニューヨーク州への進出を祝うため、ニューヨークのタイムズスクエアの中央に立っていた。ボディガードに囲まれた元ヘビー級チャンピオンに群衆が押し寄せる中、彼の横でジョイントに火をつけたのが、坊主頭でヒゲを生やしたアダム・ウィルクス(39)だった。
タイソンはその時、ジェイク・ポールとの対戦に向けて大麻を断っていたが、ウィルクスには祝うべき多くの理由があった。この業界で成功を目指した多くのセレブのブランドが消えていくなかで、彼が経営するカーマ社が運営するタイソンの大麻ブランド「Tyson 2.0」は、年間売上高が300億ドル(約4兆5200億円)規模の合法大麻市場において最も成功したブランドの1つとなったのだ。
「マイクは、世界のあらゆる場所に進出したいと考えている。新たな国が大麻を合法化するたびに、私たちは現地に赴き、彼のブランドを展開できるようにしている。会社は、グローバルで成長を続けている」とウィルクスは語る。
年間売上高は300億円
彼が率いるカーマ社は、タイソン以外にもプロレス界の大物リック・フレアーやラッパーであるフューチャーの大麻ブランドを擁しており、昨年の売上高は2億ドル(約301億円)に達したとフォーブスは試算している。同社の主力ブランドの「Tyson 2.0」のプロダクトには、乾燥大麻や電子大麻、プレロール(あらかじめ巻かれたジョイント)、さらにタイソンが1997年の試合で対戦相手の耳を噛みちぎった事件に着想を得た耳型のエディブル(グミなどの食用大麻)などがあり、約20州でそれらを販売している。
タイソンはまた、アムステルダムとケープタウンにカフェをオープンし、タイでも製品を販売している。さらに、最近大麻を合法化したドイツや英国の医療大麻市場にも進出している
コストを抑える「アセットライト」のビジネスモデルを採用するTyson 2.0は、自社では大麻を栽培せず、外部企業にタイソンのブランドを冠した大麻製品の製造・販売を委託している。このブランドはまた、ヘンプ由来の製品や喫煙アクセサリー、サプリメントやビタミンなどの健康・ウェルネス製品を展開しており、大麻の収益は、全体の約30%を占めるに過ぎないという。
大麻を入口としたIPビジネス
「この会社は、単なる大麻の販売ではなくIP(知的財産)ビジネスを手がけている」とウィルクスは語る。彼は、プライベートエクイティ(未公開株投資)の分野でキャリアを積んだ後に、この業界に参入した。カーマ社の事業は、マリリン・モンローやモハメド・アリといったグッズのライセンス事業から手を広げたオーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)にインスパイアされたものだと彼は語る。ABGは近年、ブルックス・ブラザーズやForever 21などのファッション関連のブランドの取得を強化している。