トランプ政権はこれまで人工知能(AI)分野に全力投球の構えだった。トランプ大統領は、就任式の翌日の1月21日に、OpenAIのサム・アルトマンやソフトバンクの孫正義、オラクルのラリー・エリソンらをホワイトハウスに招き、AIインフラに5000億ドル(約77兆円)を投資する「スターゲート計画」を発表した。
また、孫は昨年12月にトランプと共にマール・ア・ラーゴの会見で、米国のAI分野に1000億ドル(約15兆円)を投資すると述べていた。さらに、2月にパリで開催された世界AIサミットでJ.D.ヴァンス副大統領は、米国が今後も「AI分野の主導権を維持していくと」と強調した。
しかし、4月2日に発表されたトランプ政権の相互関税はAI分野にダメージを与える可能性がある。今回の関税は半導体を対象外としているが、AIの膨大な計算処理を支えるデータセンターの建設や運営コストを大きく押し上げる恐れがある。
「データセンターに欠かせない輸入品の大部分がこの関税の対象になっている。コストが上昇するのは間違いないと」と、ミシガン州立大学でサプライチェーンを研究するジェイソン・ミラー教授はフォーブスに語った。
業界側がアルミニウムなどのデータセンターに不可欠な素材の国内製造を拡大することも考えられるが、それには多大なコストと時間がかかる。プライベートエクイティ企業アトレイデス・マネジメントの最高投資責任者のギャビン・ベイカーは、半導体が関税対象外であることを踏まえたうえで、厳しい見方を示す。
「データセンター向けのサーバーやネットワーク機器は、完成品の形で台湾やその他アジア諸国から米国に入ってくる。我々がこれらのシステムを国内で製造できるようになる頃には、AI競争に負けているだろう」と彼はX(旧ツイッター)に投稿した。
AIクラウド企業はすでに警戒を強めている。先日の新規株式公開(IPO)で時価総額が230億ドル(約3兆3000億円)に達したCoreWeave(コアウィーブ)は、目論見書のリスク要因に関税の影響を明記していた。
トランプ政権の関税はすでにテック業界に緊張をもたらしている。この関税は、シリコンバレーの巨大な製造拠点である中国に34%の関税を課し、中国側も同じ34%の報復関税で応酬した。また、半導体は対象外ではあるが、電子機器やその他の部品の調達元である台湾にも32%の関税が課されている。