「新プラザ合意」についての噂もある。プラザ合意は1985年にニューヨークのプラザホテルで結ばれた通貨協定で、このホテルはその後、トランプが所有していた時期もある。
当時のロナルド・レーガン米大統領は、いまもなおトランプを刺激してやまない重商主義的な政策を掲げて2期目をスタートさせた。ジェームズ・ベーカー財務長官は最も有力な先進工業諸国を強引に協調させ、急激な円安・ドル高を進めることに成功した。
トランプ1.0政権の発足直後、スティーブン・ムニューシン財務長官やピーター・ナバロ大統領補佐官らは、同様の合意で人民元を急騰させる案をちらつかせていた。
中国はノーと言うに違いない。習率いる中国共産党政権は、プラザ合意が1980年代後半に日本の資産バブルを引き起こし、数十年にわたる停滞につながったことをよく知っている。エコノミストらが中国経済の「日本化」リスクについてあれこれ言い立てるなか、トランプを喜ばせるような人民元高を習が容認する可能性はきわめて低い。
他方、米政府債務が37兆ドル(約5380兆円)の大台に近づきながら、トランプが新たな減税をほのめかしていることは、米国の信用格付けにとって良い材料のはずがない。米国の信用格付けを最上位に据え置いている主要格付け会社はもうひとつだけだ。ムーディーズ・インベスターズ・サービスがそれを引き下げるリスクは、およそ3兆ドル(約437兆円)の米国債を保有するアジアの中央銀行・財務当局を浮足立たせている。
もっとも、これらの状況のどれも、ドルの空売りがウィドウメーカーから一転、勝ち組になると請け合うようなものではない。しかし、ドルが今年大きくつまずく可能性はこうしている間にも高まっている。