1980年代は、ニューヨークの大物実業家としてトランプが絶頂期にあった時代だ。貿易、経済、地政学、文化などに関する彼の基本的な考え方は、この時期に固まったとみていいだろう。トランプが当時、米国を食い物にし、その未来を奪っている悪者と見なしていたのは、日本だった。今日、トランプが目の敵にしているのは、習近平国家主席率いる中国である。
だが、もし日本も、日本政府の想定しないような成り行きでトランプの「敵リスト」の上位に載ることになったら、いったいどうなるだろうか?
石破茂首相の国が「トランプ2.0」のチームに睨まれるきっかけになり得るものは、数は多くないにせよいくつか考えられる。たとえば、日本政府が米政府との貿易交渉で、大幅な譲歩をするといった満足のいく協力姿勢を示さないこと。あるいは、石破の率いる与党・自由民主党が、防衛費を国内総生産(GDP)比で3%まで引き上げるために速やかに行動しないこと。
けれども、真の火種は、トランプの1980年代的な世界経済観から見て、許しがたいほどの円安かもしれない。
今月20日にホワイトハウスに復帰する準備を進めているトランプにとって、最上位の経済プロジェクトは中国への対抗である。中国本土製品に60%の関税を課す、中国のテクノロジー部門を締めつける、対人民元でドル安に誘導するなど、トランプのチームにはやるべき仕事が山積している。
とはいえ円相場の下落もまた、トランプのレーダースクリーンに映ることになりそうだ。とくに、トランプへの説明役にピーター・ナバロのような対中強硬派のアドバイザーのほか、ロバート・ライトハイザー、ジェイミソン・グリアといったタカ派の通商当局関係者が名を連ねているのを見れば、ますますそう思えてくる(編集注:ナバロは次期政権で通商・製造業担当の大統領上級顧問、グリアは通商代表部=USTR=代表にそれぞれ指名されている。ライトハイザーは第1次トランプ政権でUSTR代表を務めた)。重要な変数は、円安を受けて習が中国も人民元のレートを引き下げるべきだと考えるかどうかだ。