ここアジアで政策立案者や企業経営者、投資家と話をしていると、米国の信用格付けが驚くほど頻繁に話題に出てくる。トランプ米大統領と、「政府効率化省(DOGE=ドージ)」を率いるマスクを筆頭とするテック系ビリオネアの側近らが米国をひっくり返しているというのに、格付け会社の反応が薄いのはアジアから見れば不思議に感じる。
米国の政府高官たちは何十年もの間、アジア諸国の政府に対して、安定性、透明性、そして説明責任について散々説教してきた。それらが当の米国でリアルタイムで失われつつあるではないか。また、トランプとマスクのタッグが米国際開発局(USAID)を絞め殺そうとしていることは、「トランプ1.0」政権が2017年に米国を環太平洋経済連携協定(TPP)から離脱させたのと同じくらい、中国への大きな贈り物だ。
日本からインドネシアまでアジア各国の政府当局者はさらに、マスクとその影の技術者集団が、なぜ米連邦政府の決済システムへのアクセスを許可されたのか理解に苦しんでいる。しかも、それを許可したのが、MAGA(米国を再び偉大に)ワールドの穏健派として期待されていたスコット・ベッセント財務長官その人だったことにも。
アジアのトップバンカーたちにとって、トランプが政権に復帰してからの3週間の混乱は「他人事」では済まされない。米国外で米国債を最も多く保有するのはアジアの中央銀行・財務当局なのだ。日本は世界一の1兆1000億ドル(約168兆円)ほどを保有し、「トランプ2.0」政権の突飛な行動によって最も大きなリスクにさらされる。2位は保有額およそ7700億ドル(約110兆7000億円)の中国だ。
大統領令の乱発や、貿易戦争をめぐる目まぐるしい変化に加え、アジアのセントラルバンカーたちはトランプが掲げた政策や構想にも不安を抱いている。それには、米国の政府債務が37兆ドル(約5600兆円)に迫るなかでの新たな大型減税、関税による収入でその他の税収を代替できるという奇妙な理論、ドル切り下げへの個人的な誘惑、そして、米連邦準備制度理事会(FRB)から意思決定権を奪い取りたいという、よく言われる彼の願望などが含まれる。