食&酒

2025.04.16 14:15

初代の夢を受け継ぐ、クリュッグの伝統と未来

1843年に、ヨーゼフ・クリュッグが創業したシャンパーニュメゾン「クリュッグ」。6代180余年にわたるときを経ても、創業者の哲学や夢は、なお脈々と受け継がれている。現当主となって30年、6代目オリヴィエ・クリュッグもまた、初代の夢の実現を忠実に追い続けている。一方、世界中にその魅力を広く知らしめるために、新しい試みも積極的に行っている。そのひとつであるクリュッグアンバサダーの仕組みだ。アンバサダーの一員である世界的パティシエの成田一世氏と、クリュッグの魅力や楽しみ方について語り合った。


「夢があるなら、その夢を追い続けよ」それが、6代目当主、オリヴィエ・クリュッグ氏が、創業者のヨーゼフ・クリュッグから受け継いだ、最も大きな哲学であるという。

初代ヨーゼフ・クリュッグにとっては、シャンパーニュは人生の歓びの代名詞であった。ところが、182年前の創業時、シャンパーニュは気候風土に左右されやすく、毎年、完全に満足のいくものを造り続けられないことに不満を感じていた。それをあらゆる叡智を駆使して——畑の区画ごとのワインやリザーブワインをブレンドすること——いずれの年も最高品質のシャンパーニュを醸すことに成功した。それこそがクリュッグのフラッグシップである、クリュッグ グランド・キュヴェである。その伝統をオリヴィエ・クリュッグもまた、当主になって30年以上追い求めているのである。それがゆえに、シャンパーニュの帝王にも喩えられるクリュッグの品質が守られているのだ。

代表作のKRUG GRANDE CUVÉE。創業者のヨーゼフ・クリュッグに敬意を表し、彼の夢を絶えず引き継ぐため、初年度の1845年度のキュヴェを「エディション1」として、その数を刻み続けている。現行品はクリュッグ グランド・キュヴェ 172エディション
代表作のKRUG GRANDE CUVÉE。創業者のヨーゼフ・クリュッグに敬意を表し、彼の夢を絶えず引き継ぐため、初年度の1845年度のキュヴェを「エディション1」として、その数を刻み続けている。現行品はクリュッグ グランド・キュヴェ 172エディション

「なるほど、グランド・キュヴェという、毎年同じシャンパーニュを……」と、話しかけた途端、同じという表現は異なると、ぴしゃりと言われた。同じではないのである、同様に最高に芳醇なシャンパーニュ、という意味が正確なのである。「私は過去のコピーを作るつもりはありません。今日、もう一度最高のものを作ろう」と、オリヴィエは強い意志を持ち続けているのである。

醸造方法については、どのようなことを受け継いでいるのであろうかと聞いてみた。すると、「工程というよりも、大切にしているのはビジョン。何に向かっていきたいか、どこに向かっていきたいか。方向性は見えているので、そこにどうやって到達するのかを大切にしています。その中には伝統的なやり方もあるかもしれないし、最新の新しい手法もあるかもしれない」との答えだ。

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文=小松宏子、写真=奥田真理 (FIVE SEASON)

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