今年2月には、「中東のベストレストラン50」で、アブダビの最高級ホテルの日本料理店とのコラボレーションを頼まれ、福岡、下関の友人料理人を引き連れて乗り込み、大成功をおさめた。3月末の「アジアのベストレストラン50」では、プライベートのアフターパーティで腕をふるう。
2024年の「世界のベストレストラン50」で9位のタイのガガン・アナンド氏とは、すでに13回のコラボレーション”GohGan”を行い、現在は福岡でレストラン「GohGan(ゴウガン)」を共同経営する。
福岡出身の大いなる田舎者であった福山剛氏の現在の姿だ。今や日本国内はおろか、世界的にも発信力の大きいトップシェフのひとり。福岡でフレンチレストランを経営していた一介のシェフの身の上に、こんなことがおこりうるとは、当人が一番驚いているに違いない。
福山氏は、小学生の頃から料理が好きで、調理器具を誕生日プレゼントにねだるような子供だったという。次第に料理の専門誌などを読むようになり、シェフに憧れる。高校2年の春休みに親戚のフレンチレストランでアルバイトをし、その紹介で地元の有名店に就職が決まった。その店で7年を過ごしたのち、ひょんなことから中州のワインバーで6年働くことになる。
それまでの店は、キッチンとホールが完全に分かれた昔ながらの店だったので、カウンターでの客商売はとても勉強になったと振り返る。
「それまでは自分が美味しいと思うものを作ればいいと思っていたんですが、ジビエなどを出すよりも、じゃがいものポタージュや鶏の皮をパリッと焼いたシンプルな料理を出す方が喜ばれることが客の顔色を見てわかるようになったんです。ワインも含め、レストランとは総合力であるということを学びましたね。安心できる味、食べやすい味、リピートしたくなる味は、今も大切にしていることです」
その後、2002年に「ラ・メゾン・ドゥ・ラ・ナチュール・ゴウ」の名で独立。5000円のおまかせコース1本、カウンター6席、テーブル12席の小体な店だ。福岡のお客さまに頻繁にきてもらいたいと価格帯を絞ったこともあるが、客の誕生日を記録するなど、細やかなサービスを行い、まちがいのない美味しい料理を提供し続けた。評判が評判を呼び、店は毎晩満席になった。