3月18日の米ロ首脳による電話会談への期待は低かった。ウクライナは30日間の停戦に原則同意していたが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は実現不可能な条件を突きつけたうえで、交渉決裂の責任をウクライナと欧州側になすりつけると予想されていた。ところが、プーチンは意外な行動に出た。
ドナルド・トランプ米大統領とのこの電話会談で、プーチンは限定的な停戦に同意した。クレムリン(ロシア大統領府)の発表によれば、「エネルギーインフラ」に対する攻撃をロシアとウクライナが互いに30日間停止するというものだ。人道的な問題を気にかける者であればむしろ地上戦を問題にするだろう。なぜなら、それによって連日1000人以上のロシア軍人が命を落としているからだ。だが、プーチンがそれよりも懸念しているのは、ウクライナの攻撃でロシアの石油・ガス施設が次々に炎上している事態のようだ。
エネルギー戦争
プーチンは抜け目のない政治家であり、ロシア側に大きく有利にならない取引には応じまい。とはいえ、それがあたかも双方に利益があるかのように見せかけるほどの狡猾さも持ち合わせているのがプーチンだ。
一見、インフラへの攻撃停止はウクライナも安堵するもののように思えるだろう。たしかにウクライナはシャヘド型ドローン(無人機)の襲撃を受け続けており、その数はますます増えている。シャヘドの月間飛来数は2024年2月には400機弱だったが、1年後の今年2月には10倍の4000機近くにのぼった。ウクライナには毎晩、100機以上のシャヘドの波が押し寄せるのが常態になっている。
ロシアによるドローン攻撃はウクライナの電力系統を主要な目標にしており、発電所や変電所に打撃を与えている。国連ウクライナ人権監視団(HRMMU)の報告書によると、2024年6月までにウクライナの火力発電設備の73%が稼働不能になった。だが、ウクライナを凍えさせて屈服させようとする試みは失敗しており、春の到来とともに発電への圧力は緩んでいくだろう。