スターシップ爆発への反応を読み解く
まず注目すべきは、この試験飛行自体が極めて大きな関心を集めている点だ。試験段階の打ち上げにここまで世間やメディアの注目が集まる企業は、SpaceXをおいてほとんど存在しない。
一方で、これは企業にとって大きな宣伝効果をもたらす可能性があるが、他方では「スターシップが爆発したことを歓迎するわけではないが、その後の議論をどこか楽しんでいる」ような声も生まれやすくなる。
しかし本来、世界最大級のロケットの試験飛行は嘲笑ではなく興奮を呼び起こすはずだ。にもかかわらず嘲笑めいた反応が目立つ背景には、イーロン・マスク本人への感情が大きく作用している。
Masterful gambit sir pic.twitter.com/53ZIfbvlVr
— j aubrey 🤠 (@jaubreyYT) March 7, 2025
研究によれば、米国の成人の大多数はイーロン・マスクを好意的に見ていないという。その主因として、テクノロジーやソーシャルメディアの普及によって、かつてないほど経営者が有名になり得る構造が挙げられる。中でもマスクは、ツイッターを買収・運営して自身の名声を高め、ティム・クックのように控えめな姿勢とは対照的に、時事問題にも積極的に関与している。
これには利点がある。イーロン・マスクほどの知名度があれば、自身の意図やプロジェクトを広くアピールできる。しかし同時に、そこまで有名でない経営者なら直面しないような嘲笑や批判を大衆から浴びるリスクも高まる。今回のスターシップ爆発に対する反応は、この状況と直接結びついている。
ソーシャルメディアが私たちの有名人との関係を変えた重要な要素の1つは、有名人が謙虚になったり屈辱を受けたりする姿を見たいという欲求を増幅させたことだ。一部の研究者によれば、これは一般市民が自分ではコントロールできない経済的不公平(食料品価格の高騰など)に日常的に直面しており、この不公平感や屈辱感を、経済的に恵まれていて、こうした生活変化の影響をほとんど受けない人々にも向けられるべきだと感じているためだと説明している。
つまり「有名人が失敗すると、世界のバランスが修正されたように感じる」のだ。そして現在、イーロン・マスクは大統領職との関わりやDOGEの運営などを通じ、いわば社会的影響力の絶頂にいるように見える。
スターシップの爆発をめぐって「納税者のお金を無駄にしている」と揶揄する声に見られる一種の快感は、この公正感への欲求が投影された結果ともいえる。マスクが公の場でスターシップの失敗に直面すると、不均衡な社会が少しだけ均衡に近づいたように感じるわけである。
究極的には、イーロン・マスクがこれほどの有名CEOでなければ、今回のSpaceXスターシップ爆発がこれほど大きな嘲笑や注目を集めることはなかっただろう。しかし、もし彼が有名でなければ、同社がこれほど壮大なプロジェクトを進める立場にもなかったかもしれない。
ここにこそ、現代の有名CEOとソーシャルメディアの複雑なジレンマがある。ブランドイメージを損なうリスクは高まるが、同時に高い知名度が資金や関心を呼び込み、大胆なプロジェクトを実現可能にしている面もある。この状況が良いか悪いかは、次回のスターシップ打ち上げ実験まで判断を保留せざるを得ないだろう。