先述したように、人は咄嗟の場合にグーを出す可能性が高い(だから、パーで応じるのが有効なのだ)。しかし「最初はグー」を挟めば必然的に二連続でグーを繰り出すことになってしまう。人間の心理として、なんとなく忌避したくなるのではないだろうか。実際、日本じゃんけん協会のホームページに記されている「勝利の法則10ヵ条」でも、「最初はグー」を行った場合にはグーを出す確率が下がると記されている。
相手を急がせるという戦術も、「最初はグー」のあいだに思考する余裕が生まれることで弱体化させられる。そもそも志村氏が「最初はグー」を支持したのは、居酒屋で酔っ払った面々がなかなかタイミングを合わせられなかったからだと言われている。つまり、その掛け声には気持ちを整える効果があると言ってもいいだろう。
こうしてみると、志村氏にその意図はなかったとはいえ、「最初はグー」にはじゃんけんをより公平にする効果があるといえるのではないだろうか。老若男女、誰しもが同一のスタートラインで勝負することができるというわけだ。
じゃんけんをスポーツと表現するのが適切かどうかはわからない。しかしそれが勝敗を決する要素を持つ以上、最低限のスポーツマンシップに則る必要はあるはずだ。データや心理戦に走るのも悪くないが、それらを捨て、「最初はグー」から公平に始めてみるのも一興だろう。
ひとまず筆者は今後積極的にパーを出していきたいと思うが、盤外戦術を使うのはやめておきたい。そこまでいくと人間性を疑われてしまうというか、試合に勝って勝負に負けてしまう未来が容易に見える。
たかがじゃんけん、されどじゃんけん。場の空気を壊さない程度に、勝利を狙っていくべきだろう。これからも私たちは、生きている限りじゃんけんを続けていくのだから。
今日も日本のどこかで「最初はグー」の掛け声が響き渡っている。
松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。