トランプ米大統領が2月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領との会談で鉱物資源に関する協定に署名しなかったのは、かえって良いことだったのかもしれない。というのもこの協定は、トランプが最初に約束していたものとは、まったく異なるものになっていたからだ。
トランプは28日、ホワイトハウスの執務室での激しい口論の後、ゼレンスキー大統領を「追い出した」と報じられた。ゼレンスキーは、米国とウクライナの間の画期的な協定になると期待されていた鉱物資源の協定に、署名せずにホワイトハウスを後にした。
しかし、この協定は、いずれにしろ中途半端なものだった。この協定は、トランプ大統領が2週間前に述べていたような、米国に5000億ドル(約75兆円)相当の鉱物資源の権利を与えるものではなかったし、ウクライナ側にとってもロシアの攻撃を抑止するための米国からの安全保障の確約を得られるものでもなかったのだ。
もしかすると、この協定は何らかの形で機能し、小さな合意から平和への道へとつながる可能性もあったかもしれない。しかし、現状ではすべてが宙に浮いた状態だ。トランプは、この会談の後のSNSの投稿でゼレンスキーが、「米国やこの国のウクライナへの努力に敬意を払わなかった」と非難し、「ゼレンスキー大統領が、米国が関与する和平プロセスへの準備ができていないと判断した」と語った。
トランプは、今から2週間前にウクライナに対し、「我々の軍事支援の見返りとして5000億ドル相当の鉱物資源を提供すべきだ」と提案したが、ゼレンスキーは、当初からこの提案に困惑していた。しかし、トランプは、ウクライナの「非常に優れたレアアース資源」に執着しており、二国間で「米国が支配株主となるファンド」を立ち上げて、ウクライナで今後開発される天然資源からの収益の50%を拠出する構想が話し合われていた。
この構想は当然、激しい反発を招いていた。トランプは、ウクライナが復興のために必要とする資本を奪おうとしているのではないかという疑念や、戦争中の国で新たな採掘事業を展開し、その利益の大半を米国に渡すような企業があるだろうかという疑問も生じていた。
また、専門家たちは、そもそもウクライナには「レアアース」と定義されるネオジムやプラセオジム、ジスプロシウムなどの大規模な鉱床がなく、実際にあるのは、「レアメタル」に分類されるチタンやリチウム、グラファイトだと指摘していた。
結局、レアアースの話はただの目くらましだったことが、すでにわかっていた。今回署名が予定されていた協定の内容は、トランプが当初宣伝していたものとはまったく異なるもので、米国がウクライナの鉱物資源の権利を得るとはひと言も記されていなかった。
ウクライナ復興の「投資ファンド」
この協定は、ウクライナの復興のための「投資ファンド」の設立に向けてのもので、このファンドを米国財務省とウクライナ政府が共同で管理し、ウクライナ政府は、新たな採掘産業(鉱物、石油、ガス、石炭など)からの収益の50%をファンドに拠出するという内容だった。また、このファンドへの拠出金は、「ウクライナの安全・安定・繁栄を促進するために、年に少なくとも1度、再投資される」と明記されていた。