また、経営者は必ずしも、初めから現場の「たたき上げ」である必要はないと思います。今回グランプリに選ばれた、日本熱源システムの原田克彦社長は、元NHK記者という異色の経歴です。同社はフロン冷媒ではなく、環境負荷の少ない「自然冷媒」による産業用冷凍機のトップメーカー。データセンターや半導体、自動車の業界でも「熱を制するものは時代を制する」というくらい、これからは熱のコントロールがとても重要になってくる。うまくいったときのインパクトは計り知れない。原田さんは、記者として遠くの世界を見聞きし「知の探索」を習慣化させてきたからこそ、進む道を決断できたのだと思うのです。また、同社は「究極のリアル」である、ものづくりの会社です。日本の高い技術力を生かすことができます。売り上げ、利益率の伸びも驚異的です。
同じく、外から来た経営者で成功した例が白山です。戦後、保安器(家庭用電話機に使われる雷防護製品)をつくっていた会社で、NTTグループ出身の米川達也社長が、光通信の発展を見越して光コネクタ部品の製造を開始し、近年需要が爆発した。NTTにいらした方だから、この視点が取れた。後から考えると当たり前でも、「絶対に光コネクタだ」と考えられるのは、白山の内部の社員では難しい。また、経営転換は非常にリスクがあることなので、それをやり抜く胆力や、社員とのコミュニケーション能力が相当高い方と思います。「健全なリスクを取れば、外から来た経営者で才覚のある人が会社を大きく変えられる」という、スモール・ジャイアンツの典型例です。
エリジオンは、3次元CADのデータ変換のソフトウェアで、世界で4割近いシェアで、クライアントがトヨタ自動車やボーイング、NASAなどのグローバル大企業です。こういった「絶対に失敗ができない」ような製品を、ものづくりの街、浜松から東京をスルーして世界に飛び出して展開している。前述のスマイルカーブの上流を才覚のある小寺敏正さんという経営者が、そして天才技術者軍団が下流をやっていて、中間の人はいない。そうすると、生産性を上げることができ、80人近い社員の平均年収が2000万円を超えて、4000万円超えの社員が5人もいる。日本の優秀な理系人材をうまく生かした勝ち筋です。
もともとその企業がもっていたノウハウや資源を地方から世界に展開していこう、という意味では赤坂水産やナンガ、ナイガイも同様と言えるかもしれません。
「文化」を売りにいく
赤坂水産の最大のポイントは「文化」を売りにいっているところだと思います。愛媛のタイをノルウェーのサーモンのように世界一にしたいと、ブランドマダイの養殖で世界市場を目指しているわけですが、白身魚はとかく海外では味が淡白すぎて人気がない。しかし、3代目社長は、これからは白身魚も受け入れられるはずという考えのもと、熟成させ旨みを濃厚にしたり、食文化を理解してもらうために啓蒙にも力を入れている。文化を売りにいくのはとても難しいですが、成功したときの果実は大きい。世界での魚の消費量は増え続け、漁業は世界的に見て成長産業ですが、日本では零細漁業事業者が多く、世界展開がむずかしいなかチャレンジしている点が新しいといえます。