BtoCを展開する中小企業で最も重要なポイントは、ブランディングです。祖父の代からの家業である布団製造をルーツに「保温」にこだわり、ダウンジャケットなどのアパレル製品で世界展開する「ナンガ」もそうですが、BtoCに求められるのは顧客をつかむ「感覚」です。BtoBのように、顧客のニーズに的確なビジネスモデルを当てて効率化していく、ということでは解決できない。いわばトップの天才的な「感覚」が必要になってくる。スノーピークもその例だと思うのですが、結局は山井太社長の世界観があって、みんな買ってしまう。難しくはあるのですが、逆に言うと、日本の製品はもともとクオリティが高いので、そこにBtoCの感覚でブランディングをできるトップがうまくはまると、突き抜けられる。
そういう意味で、アスリートが着用している手袋を香川県でODM生産しているナイガイにも、自社製品をつくってほしいと思いました。世界的アスリートに評価されているので、クオリティは間違いないと思いますし、手袋のまち、東かがわと地域の産業を守りたいという気持ちはとても重要だと思いますので、ぜひBtoCにも期待したいですね。
また、日本発でこれから世界を市場に大きく伸びるビジネスは、どう考えてもカルチャーやエンタメ分野です。貧富の差は広がっていますが、人間は確実に豊かになってきていて、さらにデジタル化が進むと、人は暇になります。便利になると生活にあまりお金を使わなくて済むようになるので、ひたすら「推し活」にお金を使うようになる。クリプトン・フューチャー・メディアは、ボーカロイドを世界屈指の日本のアニメや漫画文化と組み合わせた新しい世界観で、東京を介さずに北海道からグローバルに展開している、大成功例ですよね。私から見るとよりスタートアップに近いのですが、日本がこれからやるべき最先端中の最先端のことをやっている例だと思います。
これまで日本の地方の中小企業にとって海外展開なんて夢のまた夢でしたが、リアルとデジタルの組み合わせで、小回りの利く中小企業こそ世界に市場を見出し、大きく成長し、変革をもたらす可能性が大きい。ぜひ、これからのスモール・ジャイアンツの躍進に期待したいです。
入山章栄◎早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサーを経て、19年より現職。