日本の魅力は高齢者がたくさんいること
小木曽:UFJという大銀行が除雪を手掛けていらっしゃるとは意外でしたが、DXと3Dマップの領域で少子高齢化の課題解決を行う興味深い事例です。池野さんはいかがですか?
池野:やはり日本人として「少子高齢化」と「医療・介護の需要増加」、そして「社会保障制度の持続可能性」が近々の課題だと思っています。日本の高齢化率は現在30%で、世界でダントツの一位です。ポジティブにとらえれば、日本の魅力は高齢者がたくさんいることなんですよね。これは実は意外と世界を先取りしているかもしれない。私は真剣にそう考えています。
今後、中国やアメリカ、ヨーロッパ諸国でも高齢者は増えます。世界の未来の課題を、すでに日本は現実としてとらえている。それは間違いなくビジネスチャンスです。

イノベーションというのは基本的にペインポイント、つまり何か困っていることがあって、それに対してマストハブ「これがあればこの課題を解決できる、逆にいうとないと解決できない」というものを生み出せば、大ブレイクします。そのマストハブが、将来的に未来の日本の輸出産業につながる可能性があると思っています。
では、日本の未来をどう知るか。地方に行けばいいんです。秋田県の高齢化率は約38.6%で、高知県は36.1%です(2022年)。2050年の未来の日本は地方にあるんです。地方こそ課題を見つける最適な場所です。そこでアイデアを出して実証プロジェクトを実施し、課題を解決していけば、地域の方にも喜ばれます。
社会課題解決の技術でマネタイズする2つの方法
小木曽:社会課題の解決は80、90年代は政府がやることで、それが今は企業に代わった。社会課題の解決はイノベーションの種であり、成長の種であると、レトリックは変わってきたなと思います。
ただ、そこからどうやって利益を出していくのかが大事です。利益と社会課題の両立という点で、おふたりが取り組んでいる分野ではいかがでしょうか?
西地:この問題は本当に難しい。ソーシャルインパクトボンドのような、社会的価値を上手く金銭価値に変えていくスキームはありますが、やはり社会全体としてコストを減らすだけの話になっている領域については、日本ではマネタイズは難しいと思います。だからどうしても外の市場に売っていく。池野先生がお話しされたように、未来が日本にあるのなら、日本で実証したものを課題が遅れてやってくる国に展開していく。
池野:日本は実に素晴らしい国です。医療制度、社会保障制度の充実度は間違いなく世界No.1です。ただし、現状として持続が難しくなってきています。これらの制度ができた1961年時点ではおそらく高齢化は6%ほど。今はその5倍ですから。福祉や介護のニューテクノロジーを日本国内の市場だけで考えていては、ペイは難しいでしょう。
その対策としてはふたつあります。まず「国や場所を変える」こと。もうひとつは「用途を変える」ことです。
私は2001年に渡米する直前まで、僻地医療の医師として静岡県と愛知県の県境にある佐久間町の診療所にいました。ここは当時で高齢化率が40%を超えていた田舎町です。そこからシリコンバレーのスタンフォード大学に来たのですが、キャンパスを歩いていると、工学部の学生たちが面白そうな車の研究をしていたんです。
そこで何をしているのか聞いたら、「自動運転の研究」だという。しかし、2001年当時の私は「自動運転なんて、事故が増えるだけだろう」ぐらいに思っていましたので、まともに取り合わなかったんです。ところが、学生たちからどこから来たのか聞かれ、「日本から」と答えると、彼らのひとりが「私たちはあなたたちの未来の課題を解決するために、このプロジェクトをやっています」と答えたのです。