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テクノロジー

2025.02.12 13:30

2025年はアバターの社会実装元年。石黒浩教授が語る「いのちの未来」

石黒 浩|大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

石黒 浩|大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

ロボット工学の世界的権威である石黒浩は、2025年4月に開幕する大阪・関西万博で「50年後の未来」を表現する。人間とアバターが共生する未来に向けて、私たちは今、何をすべきだろうか。


「“いのちの未来”です。それ以外にないですね」木々が色づきはじめた大阪大学のキャンパスで「2025年のキーワード」を尋ねると、ロボット工学の世界的権威である石黒浩はこう答えた。
石黒がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」館。「いのち」の象徴でもあり、無機物と有機物を結びつける「水」に着目した水景を生かしたデザイン。

石黒がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」館。「いのち」の象徴でもあり、無機物と有機物を結びつける「水」に着目した水景を生かしたデザイン。

石黒は、25年4月からスタートする大阪・関西万博において、その中心となる8つの「シグネチャーパビリオン」のひとつでプロデューサーを務める。“いのちの未来”は、そのパビリオンのテーマでもある。今、石黒が考える“いのちの未来”とは何なのか。

アバター(遠隔操作ロボット)と人間との共生社会を目指して、アバターや知能ロボットの研究開発に従事してきた石黒。20年には国のムーンショット型研究開発事業のプロジェクトマネージャーに就任し「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会の実現」に取り組む。また、21年にはアバターの社会実装を目指す「AVITA」を創業した。

6カ月にわたって開催される大阪万博では、こうした知見を生かして約50体のロボットやアンドロイドを展示し、50年後の社会や人々の暮らしを表現する。来館者にはそれを体感してもらうことで、高度なテクノロジーを手にした人間の未来を考える機会を提供する。石黒は、こうした展示を通して発信する“いのちの未来”について、次のように説明する。

「歴史をさかのぼれば、肌の色や出自、障害、病気などを理由に社会から隔てられ、まるで“いのちがない”かのように扱われる人々が多くいました。そういった意味では、女性だって社会に参加できない時代があり、“いのちがない”に等しかった。それが現代では、すべての人に人権が認められ、かつ実際に労働や他者とのかかわり合いのなかで社会参加することで、多くの人々が“いのちあるもの”となりました。ですから、こうした流れの延長線上で、社会参加するアバターに“いのち”を認めることは、十分に考えられます」

将来的にはアバターと人間との境界がなくなり、いのちの定義が変わる。石黒はそう考えている。
石黒のパビリオンでは、約20体のアンドロイドと30体弱のロボットを展示。体験者には、人間が高度なテクノロジーを手にした50年後の未来をイメージし、考える機会を提供する。

石黒のパビリオンでは、約20体のアンドロイドと30体弱のロボットを展示。体験者には、人間が高度なテクノロジーを手にした50年後の未来をイメージし、考える機会を提供する。

そんな“いのちの未来”を考える機会が、万博だけでなく日常生活でも増えていくのが2025年。「CGでもロボットでも、人間が遠隔操作するアバターが急速に普及し、日本の人手不足解消の一助にもなるでしょう」。

日本ではすでに、対話を通じてサービスを行う接客や相談、受付業務などでのアバターの活用は当たり前になりつつある。また、高齢者や身体障害者が、アバターを使うことで肉体的な制約を超えて接客業で活躍する事例も増えている。

「近い将来には、国を超えて働くことも珍しくなくなるかもしれません。日本では深夜時間帯の接客業の働き手不足が課題になっていて、24時間営業のコンビニなどがやむなく店を閉めるケースも見られるようになりました。そこで、例えばブラジル在住の人にアバターで接客してもらう方法があります。向こうは日本の夜が昼間にあたるので働きやすい。すでに実証実験も始まっています」
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文=古賀寛明 写真=ヤン・ブース

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