テクノロジー

2025.02.12 13:30

2025年はアバターの社会実装元年。石黒浩教授が語る「いのちの未来」

石黒 浩|大阪大学大学院基礎工学研究科 教授

アバターによって、時間や空間をも超えた労働が可能になっているのだ。現実的には、国ごとの労働基準があるため法的な課題が残るが「でも、それが面白い」と石黒は言う。「インターネットの登場で物販の国境がなくなり、仮想通貨は国を越えた新しい通貨をつくった。今度は労働です。人が働く環境が、これからは国を越えていく」。アバターはこのように世の中を大きく変える可能性を秘めており、その兆しが見えるのが25年だ。

人間のリテラシー教育が課題に

アバターが日々身近な存在になっていくなかで、そのクオリティはどのように向上していくのか。特にアンドロイドのような、オンライン上ではなく現実世界に物理的に存在するロボットは、改善の余地が多いという。
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「人間ほど効率の良い仕組みはないですからね。人間と同じような人工の筋肉はまだつくれませんし、人間の皮膚のように傷ついても勝手に修復するような機能もまだない。ロボットが効率よく動けるように安定的にエネルギーを供給できるようなバッテリーもないので、やるべきことがいっぱいあります」
ムーンショット型研究開発事業で開発中の人間型移動ロボット存在感CA(サイバネティック・アバター)「Yui」。操作者の表情や身体動作を反映して動作し、コミュニケーションができる。

ムーンショット型研究開発事業で開発中の人間型移動ロボット存在感CA(サイバネティック・アバター)「Yui」。操作者の表情や身体動作を反映して動作し、コミュニケーションができる。

なかでも石黒は、ロボットの人間的な部分に関心が高い。人間のような発想力や価値観、好みをもち、人間と同じレベルでしゃべれるようなロボットの開発を目指しているのだ。現在、技術的には実現可能なことも多いが、コスト面やネットワークの速さといった問題が山積している。

研究開発を進めると同時に、社会課題も見えてきた。石黒が一番の課題に挙げるのが倫理観だ。「テクノロジーはどんどん高度化するけれど、それを使う側のリテラシーが未熟であれば困るということです。私たち人間は、より高度な倫理、道徳、社会的なルールをもつことを求められます。そのための教育が非常に重要になってくるでしょう」。

確かに現代社会でも、新たなテクノロジーの便利さや楽しさばかりに目を向け、使い方を間違えればどういった結果を及ぼすか、といったことまで考えが至らない人は多い。SNSを例にとっても、“世界中の誰もが見られる”ということまで考えが及ばないまま倫理観にかけた投稿をする人は絶えず、ネットリテラシーの低さが度々問題になる。今後はインターネットよりさらに高度なテクノロジーと共存していくため、新しいリテラシー教育が必要になるだろう。
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最後に、「アバターと人間との共生」に向けて尽力するなかで、石黒はどういう社会を実現したいのか、理想を尋ねた。すると、彼はこう答えた。

「人間は進化し続けなければならないので、実現したいゴールはどんどん広がっています。進化をやめたら、私たちは消えてしまうから。つまり、今以上に活動できる範囲を広げなければ、地球の外にも活動できる場所がなければ、いずれ私たちのいのちは地球とともに終わりを迎えます。人間の進化とは、活動できる場所を広げることでもあるのです」

25年は、そんな永遠に続く人間の進化の歴史のなかで、大きな一歩を踏み出す年になるだろう。


いしぐろ・ひろし◎1963年、滋賀県生まれ。ロボット工学者。知能ロボットと知覚情報基盤の研究開発を行い、次世代の情報・ロボット基盤の実現を目指す。人間酷似型ロボット研究の第一人者。2007年、英Synectics社の「世界の100人の生きている天才」で日本人最高位の26位に選ばれる。

文=古賀寛明 写真=ヤン・ブース

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