この最後のリスクは、アジアの多くの国の政策当局者にとって最も差し迫ったものだ。アジアでは1997〜98年の通貨危機の際に、米ドルとのペッグ(連動)制はほとんど放棄された。しかし、それから27年たつ現在も、アジアはドル、米国債、そして混沌としたホワイトハウスの気まぐれに左右されやすい状態にあり、安穏としてはいられない。
先月末、
ジェローム・パウエルFRB議長は、金利引き下げを切望するトランプに事実上反抗した。トランプはその1週間ほど前、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)のビデオ演説で、利下げを「要求する」と発言していた。言うまでもなく、トランプが振りかざす関税や不法移民の大量送還計画は国内のインフレを促進するのが確実であり、むしろFRBによる次の手を緩和ではなく引き締めにする可能性を高めるものだ。
トランプがほのめかしているFRBの権限縮小も含め、懸念されているとおりに両者が衝突することになれば、アジア諸国の3兆ドル(約457兆円)近くの資産が危険にさらされる。また、トランプのチームはドル切り下げのほか、米国債のデフォルト(債務不履行)に向けた措置も視野に入れている。
いずれも、2008年のリーマン・ショックすらかすむほどの甚大な影響を及ぼしかねない。米国債の利回りが急上昇すると、世界の資産市場に壊滅的な打撃を与えることになる。アジア諸国の中央銀行は、ドル建て資産のような規模と流動性をもつ新たな安全資産を探さざるを得なくなるだろう。それを見つけるのは言うほど簡単なことではない。
ドルに関するトランプの案で最善のシナリオは、新たな「プラザ合意」を取りまとめるというものかもしれない。1985年のプラザ合意では日本などがドル高是正に応じ、円はその後大幅に上昇することになった。とはいえいま、中国の指導者、習近平が同様の措置に賛成すると誰が思うだろうか。
中国経済が
デフレにあえぐなか、習国家主席の部下たちは、40年前の円高が日本経済をどのように打ちのめしたのかを入念に研究している。その後遺症はなお続いており、日本はいまだに短期金利を0.5%までしか引き上げられていない。