衝撃的なのは、DOGEの責任者がイーロン・マスクだということだ。純資産額で2位を2倍近く引き離す世界一の大富豪で、電気自動車大手テスラ、宇宙企業スペースX、ソーシャルメディアのX(旧ツイッター)、脳インプラント開発会社のニューラリンク、トンネル掘削会社ボーリングカンパニー、人工知能スタートアップのxAIを経営している。
DOGEの実働部隊を率いるのは、テクノロジーに精通した若い「ハッカー」たちだと報じられている。人事記録から機密性の非常に高い財務データまで、あらゆる情報を保管する連邦システムに前例のないアクセス権を持っているとされる。
トランプ政権はDOGEこそ官僚主義を抑制する革新的な方法だと主張しているが、三権分立の観点から警鐘を鳴らし、批判する声もある。また、政府機関にこれほど深く侵入する行為を、議会による監視を伴わずに大統領令だけで合法化できるのか疑問視する人々もいる。
そのリスクは高い。民間人がDOGEのスタッフとして連邦政府のデータベースを根こそぎ漁っているのであれば、憲法上重大な疑義が生じ、サイバーセキュリティプロトコル違反に相当する可能性がある。
憲法上の背景──三権分立の危機
合衆国憲法は第1条において、連邦議会に「財政権」を付与している。これは通常、議会が承認した予算を大統領が一方的に保留したり再配分したりできないことを意味する。また、議会立法に基づいて設立された機関を行政権限で安易に解体することもできない。1974年議会予算・執行留保規制法(1974年法)は、まさにこのような行政権の行き過ぎを制限するために制定されたものだ。法学者たちは、大統領の独断専行によりDOGEに連邦機関の資金を押収したり確立された権能を無効化したりする権限を与えることは、「憲政の危機」を引き起こすおそれがあると指摘している。
DOGEの作戦手法が報道されているとおりならば、米国政治の基本原則である「チェック・アンド・バランス(抑制と均衡)」(権力が特定部門に集中するのを防ぐため、各部門間で権力を分立させ均衡を図ること)のデリケートな仕組みが試されていることになる。
ニクソン大統領の予算執行留保など過去の事例では、議会の監視と裁判所の介入により、抑制されない行政措置に対する明確な前例が示されている。観測筋の多くはDOGEを、行政権と立法権をめぐる現在進行形のせめぎ合いの最新の火種とみている。