バイデン政権は1月初め、日本製鉄による141億ドル(約2兆1000億円)のUSスチール買収計画に中止命令を出した。両社は命令の無効などを求めて連邦裁判所に訴訟を起こしている。
バイデン政権は国家安全保障上の懸念を理由に挙げたが、すでに指摘されているように、この決定を正当化する明確な証拠や理由は提示されていない。USスチール最大の製鉄所があるインディアナ州選出のトッド・ヤング上院議員(共和党)は、先日行われたスコット・ベッセント新財務長官の指名承認公聴会で、この証拠の欠如に言及。「前大統領もその政権も、少なくとも公の場では、決定を正当化できるだけの明確な裏付けのある証拠を示さなかった。私の故郷インディアナ州にとって、この唐突な行動は多くの不安を招いている。特に、10億ドル(約1520億円)近い投資が約束されていたゲーリーでは不安が大きい」と述べた。
合併で恩恵を受けるのはゲーリー製鉄所だけではない。日本製鉄は、USスチールの本拠地であるペンシルベニア州ピッツバーグ郊外にあるモンバレー製鉄所の近代化にも10億ドルを追加投資すると約束している。USスチールの委託を受けた最近の調査によれば、この投資は建設業界に数千人の雇用を創出し、地域に9億5000万ドル(約1440億円)もの経済効果をもたらすという。
合併による経済的利益が明らかな一方、国家安全保障をめぐる懸念はばかげているように思える。米国は1951年以来、日本と安全保障同盟を結んでおり、米軍は日本の防衛に責任を負っている。日本には5万5000人の米兵が駐留し、主要な米軍基地は15カ所ある。日本はまた、米国にとって5番目に大きい貿易相手国であり、貿易規模は韓国、英国、インド、フランスなどを上回っている。すでにこれほどまでに深く関わっている国の企業が米国企業を買収することが、米国の安全保障にとって脅威となるとは考えにくい。
実のところ、米政府機関でさえも国家安全保障に関する脅威の主張を信じていない。財務省、国務省、国防総省はそれぞれ、日本製鉄のUSスチール買収計画に安全保障上のリスクはないとの結論を出している。