また、高級ブランドに限らずブランドはすべて、感情的な共鳴によって成長するものだ。ストーリーテリングは製品を体験に変え、その体験は長く残る記憶となる。コンサルティング大手デロイトが発表した高級品市場の消費者行動に関するレポートも、感情に訴えるストーリーテリングが高級ブランドの知覚価値を高めることを指摘している。ストーリーを中心に据えるブランドは、熱心な支持者を増やすことができる。
そして、まさにそれを例証しているのが、アルマーニのアプローチだ。「In Viaggio」のような没入型のイベントによるストーリーテリングを通じて、感情的・文化的シグナルを発信し、一貫性のある永続的なレガシーを築き、高級品市場における自らのポジションを確固たるものにしている。
5. 重要なのは「真実の」リーダーシップ
ジョルジオ・アルマーニの継続的な成功、その核心にあるのは、彼のリーダーシップだ。ファッション界における存命の偉人のひとりであり、自らの「帝国」の唯一のオーナーである彼が発揮するリーダーシップが、変わることのないブランドの価値と、ビジョンを維持している。そして、このブランドを「企業の所有」に潜む危険から遠ざけてきたのが、アルマーニ自身の帝国との関わり方だ。企業が所有するようになったブランドは、財政面での苦しさを理由に、クリエイティブな面での整合性を失うことが多い。
アルマーニは、自らのリーダーシップによってブランドを率い、それによって自らのDNAに忠実であり続けると同時に、ブランドを拡張してきた。有効なブランディングにおいて、重要なのは「真実性」だ。
そのアルマーニのリーダーシップは、レッドカーペットで披露されるファッションの創造にとどまらず、慈善活動、従業員の福利厚生、公共福祉に関するブランドの取り組みなどにおいても発揮されている。ラグジュアリーと責任感を結び付けることによって、様式と実体が共存可能であることを示す。それが、洞察力をもった彼のリーダーシップ・スタイルの特徴だ。
ジャーナル「Leadership, Education, Personality: An Interdisciplinary Journal」に掲載された論文は、倫理的なリーダーシップと真実性がいかに関わり合っているかについて議論すると同時に、リーダーの行動に対する信頼感が組織内における忠実心をいかに育み、信頼関係を築くことにつながるかということを強調している。
長期的な成功のためには、リーダーが明確かつ一貫したビジョンを示すことが不可欠だ。つまり、リーダーが短期的な利益よりも真実性を優先することが、永続的なブランドを生み出すことにつながる。