しかし、リーダー経験が、キャリアのどの時期に有利に働くかについては、いくぶん見解が分かれています。クーン教授は、管理職になったあと、つまりキャリアの中盤に影響が大きいことを示していますが、むしろキャリアの初期や採用の時点で有利になることを示すエビデンスもあります。
中でも、スウェーデンの3つの有名大学における「学生組合」の選挙データを用いた研究は有名です。
スウェーデンでは、大学の経営に関する意思決定は、学長・副学長を含む14人のボードメンバーが行うことが法律で定められています。この14人の中には、学生の代表として、学生組合のリーダーも含まれ、彼ら彼女らも参加します。
このため、学生組合のリーダーの役割は非常に重く、本格的な選挙が行われることが知られています。しかし、政治家を選ぶ選挙とは異なり、世論調査もありませんので、立候補する学生自身は自分が当落線上にいるのかどうかはよくわかりません。
この状況を利用して、当落線上ぎりぎりのところで選挙に勝ってリーダーに選出された人と、逆にぎりぎりのところで負けてリーダーになれなかった人を比較したのがスウェーデンの国立研究機関である労働市場・教育政策評価機構のマーティン・ランディン准教授らです(このような分析手法を「回帰不連続デザイン」と呼びます)。
こうすることで、選挙の時点での周囲からの評価はほとんど変わらないのに、リーダーを経験できたかできなかったかという違いが生じ、リーダー経験がもたらす効果をより正確に知ることができます。
この研究では、選挙に当選して実際にリーダーになった学生は、落選した学生に比べて、選挙後3年以内に高収入の仕事に就く確率が高いことがわかりました。
(本原稿は、『科学的根拠(エビデンス)で子育て』からの抜粋を編集したものである)