そう話すのはカーボンクレジットの創出から調達、仲介、コンサルを手がけるバイウィル代表取締役社長の下村雄一郎だ。脱炭素の領域で“地銀とファイナンスモデル”とはイメージしにくいようにも思えるが、いったいどのような戦略なのであろうか。
脱炭素は人類全体で取り組むべき大きな枠組みの課題であり、民間企業が点であれこれ行ってもなかなか成果を生みづらい。そこでバイウィルは、自治体や地銀、地方のテレビ局を巻き込み、地域全体で脱炭素を成長ととらえる「地域脱炭素」を押し進める。これにより新しい産業を創出し、産業界に大きなインパクトを生み出そうとしているのだ。
「すでに52の金融機関、16の自治体、その他を合わせた76のパートナーと提携契約を結びました。2025年には100パートナーを超える予定です」と下村が言うように、同社の社員らが日本全国を飛び回り、他社の追随を許さないスピードで提携を進めている。
地銀との連携で新たな活路を
こんなにも地域のプレーヤーとの提携契約が盛況なのは、なぜなのか。例えば自治体の場合、脱炭素に取り組むことで、環境省などから支援を受けられるほか、地域のイメージ向上につながるなど大きなメリットを享受できるのがその理由だ。また地銀は、SDGs、ESGへの意識からそもそも地域の脱炭素化への貢献が期待されており、重要課題として取り組む必要があった。そのうえでカーボンクレジットのスプレッドで直接的な利益を得られるようになる。さらにマスメディアも地域経済の活性化に一役買える。つまり、地域資源を最大活用した自立分散型の「地域循環共生圏」に向けたど真ん中のアクションなのだ。
特にユニークなのが、地銀をプレイヤーとして巻き込んだことであろう。下村いわく、ビジネスモデルとして参考にしたのはM&Aの先駆者となったとある企業。同社は地域金融機関との連携を徹底することで、日本全国のM&Aや事業承継の圧倒的なシェアを築いた。
脱炭素の取り組みは、太陽光発電やボイラーなど、機械設備への大規模な投資が必要になることが多い。そこでバイウィルでは、地域ごとにSPC(特別目的会社)を設立し、そこに地銀からのファイナンスをつけて、各地域に最適なCO2削減の事業創出を行おうとしている。
例えば、お茶の生産地である静岡であれば「お茶の残りかす」から、畜産業が盛んな宮崎や鹿児島であれば「牛のふん尿」から、それぞれ出るメタンガスを使って、バイオガス発電をつくるイメージだ。
発電した電気はSPCで販売し、カーボンクレジットは流通に回すことで収益を上げる。地銀への返済を進めつつ脱炭素を推進できる理想的なモデルだ。
「地域の特性によって事業モデルはさまざまですが、その地域ならではの環境価値と経済価値の循環を創出し、新しい産業をつくっていけるチャンスでもあります」
下村は、カーボンクレジットが下降線をたどる地方経済の活性化の切り札になるとして期待を寄せる。
こうしたなかでバイウィルが24年9月に設立したのが「地域脱炭素推進コンソーシアム」。地銀を中心に28の企業や団体が加盟し、環境省や経済産業省の協力を得ながら、地域や所属を超えた大きな枠組みで、カーボンクレジットに関するルールメイクや世論形成を行っていく。
「カーボンクレジットは法や会計、税務、取引市場全般においてまだまだ曖昧なところが多い。法整備が進まないことで企業が大きくかじを切れないという問題も抱えています。国に対してみんなで政策提言していく必要があるのです」
企業や団体の枠組みを超えて、各地域から日本全体の経済の底上げを見据えている。