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2025.02.18 15:30

未来を知りたい私たちの「思考の盲点」とは

Getty Images

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P.F.ドラッカーが著書『すでに起こった未来』で指摘したように、未来の芽はすでに私たちの目の前にある。

では、今ある未来の可能性の実現に取り組むミラツク西村勇哉の視点から紐解けば、これまで紹介した5つの2025年のキーワードの照準をより定められるのではないか──。氏の見方を伺おう。


人間という動物は、いつから未来を知りたいと考えるようになったのだろう。『未来の歴史』を記したフランスの歴史学者ジョルジュ・ミノワは、その歴史を先史時代の神託から描き始めている。きっとその始まりは「あの雲がかかると雨が降ること」といった、知識によって先を知ることができるようになったことにあるのだろう。

人類学者のジョセフ・ヘンリックは、著書『文化がヒトを進化させた』で、人は知識なしに生き延びることが難しいことを、ジャングルに落とされた近代人の例で示している。人は知識と想像力を駆使して未来を手に入れてきた。でもそんな私たちには「未来を見たい」という気持ちと同時に「今までと違う世界を想像できない」という弱みがある。

ミラツクでは、2017年から19年にかけて、1141個の未来に対する予測を集め、GTA(Grounded Theory Approach)というテキスト分析の手法を用いて18のテーマにまとめた。そして1000人以上に関心のあるテーマについて調査したが、当時多くの人が興味をもたなかったテーマが5年たった今になって当たり前のものになってきている。例えばそれは、「宇宙への進出」や「拡大する格差と新たな紛争」といったもの。今ではあまりに当たり前だ。

でも、レイチェル・カールソンが『沈黙の春』で、人間活動が動植物に負の影響を与えている警鐘を鳴らしてから今年で62年がたち、ドネラ・メドウズらが『成長の限界』で産業活動の負の影響に警鐘を鳴らしてから52年がたつ。たった数年前まで、環境問題や気候変動は一部の熱心な活動家以外はまったく興味を示さないどころか、切り離して無視されていた。我々はそのことすらもうあっという間に忘れてしまっている。

2017年に理化学研究所の未来戦略室というチームに参画したとき、いちばん最初に考えたことは「未来を語る予測がただの想像や意気込み、目標と違うのであれば、それは何を出発点にして考察されているものなのだろう」ということだった。

未来の予測をよくよく見てみると、かならずその出発点となる今の情報がある。それは、すでに研究として実現していてまだ世の中には広がっていないものや、すでに一部で小さく起こっていて多くには広がっていないもの、また、これまでの過去の変遷と今の状況をもとに将来を想定しているものだ。つまり、未来はすでにここにある。

哲学者のミシェル・セールは『解明 M.セールの世界』のなかで、時間は一本の線に沿って流れているものではなく、物事がつながりあったり離れたりしながら行ったり来たりしている乱流のようなものだと述べている。

この“すでにある未来”が自分とつながったり離れたりしながら、未来になったりならなかったりを行き来している、そんな世界のなかに私たちは投げ込まれ、たくさんの今ある未来に囲まれながら、その一部を自分にとって意味のある未来として受け取ってきた。
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文=西村勇哉 構成=谷本有香

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