
京都在住で『中国まんぷくスクラップ』(情報センター出版局、2008年)などの著書があるアジアグルメライターの浜井幸子さんが宴を仕切ってくれた。
彼女は筆者の古い知人の1人で、若い頃、中国の四川省の成都と北京に留学体験があることから、現地のグルメ事情に精通している。コロナ禍明けすぐに北京を訪ね、東京ディープチャイナ(TDC)のサイトに現地レポートを執筆し、以降も日々関西のガチ中華体験をSNSに投稿してくれている。
東京と関西のガチ中華の違いは人口
そんな彼女は、昨年5月、東京に遊びに来て「関西人の私が初めて見た、食べた! 東京『ガチ中華』に度肝を抜かれた」というレポートを発信している。そこには、次のような一文があり、関西と東京のガチ中華の世界の違いが率直に語られていた。「ガチ中華ブーム以降、初めての上京で、京都と大阪のガチ中華地帯をあわせた規模をはるかに上回る規模の東京のガチ中華にすっかり度肝を抜かれてしまった。ざっと見ただけなのにガチ中華のお店があるわ、あるわ。ガチ中華は中華料理界の最大勢力と言ってもいいんじゃないの?」
ここで彼女が言いたいのは、東京には驚くほどたくさんのガチ中華の店があり、関西でも増えてはいるものの、数的にみれば東京とは比較にならないということだ。
なので、先日の新年会の折、浜井さんに直に会って、あらためて両者の違いは何で、そこにはどんな事由があるのだろうというような話もした。
東京と関西のガチ中華の違いについて、筆者はきわめて単純な理由が背景にあると考えている。すなわち、首都圏と関西圏に住む中国籍の人たちの人数の差である。
法務省の「都道府県別国籍・地域別在留外国人数(令和6年6月末)」によると、日本全体の中国籍人口は84万4187人で、都道府県別のトップテンは次のとおりである。
1位 東京都 27万2328人
2位 埼玉県 8万1800人
3位 大阪府 8万1499人
4位 神奈川県 7万8979人
5位 千葉県 5万9619人
6位 愛知県 4万6122人
7位 兵庫県 2万3762人
8位 福岡県 2万998人
9位 京都府 1万8954人
10位 茨城県 1万2532人
東京都や埼玉県、神奈川県、千葉県、茨城県を合わせた首都圏の中国籍人口は50万5258人。大阪府や兵庫県、京都府を合わせた関西圏は12万4215人で、両者には4倍強の差がある。東京都だけでも27万人以上いるが、これは港区(26万6306人)や目黒区(27万9520人)の人口に匹敵する。
これだけ多くの中国籍の人たちが東京に住んでいれば、ガチ中華の店が増えるのも当然だろう。首都圏各県も同様だ。筆者の推定では、ガチ中華の店の数はいまでは、東京で500店から600店、首都圏3県を加えると1000店を超えるのではないかと考えている。
店の数が多くなると、当然過当競争が起こる。差別化のための料理のジャンルやレストランの形態の多様化が生まれ、東京では日本人にとって未知なる味覚の世界が続々とバリエーション豊かに出現している。誰より中国の現地事情に詳しい浜井さんだからこそ、その光景を見て驚いたのだろう。
もっとも、筆者の目からみると、関西で起きているディープチャイナ現象もまた興味深いものが多い。今回も大阪を歩いたので、そこで発見したいくつかのこと、また大阪でしか見たことのない世界についても触れてみたい。