監督の語る1974年の映画との違い
「エマニュエル」の監督はオードレイ・ディヴァン。パリ政治学院でジャーナリズムと政治学を専攻、ファッション誌などの記者を経て、2008 年から脚本家として数々の映画で活躍する。2021年の第78回ベネチア国際映画祭では、ノーベル文学賞を受賞した作家でもあるアニー・エルノーの小説「事件」を自ら脚色して監督した作品「あのこと」(2021年)で、最高賞の金獅子賞を受賞。フランスを代表する女性監督の1人となっている。
その実力派監督が、なぜ「エマニュエル」の映像化に挑んだのか、彼女はこのように語っている。
「プロデューサーからエマニュエル・アルサンが書いた原作を渡されて、読んでみたら楽しめました。女性の一人称で書かれた作品で、ヒロインは対象というより主題なのですが、1974 年の映画(「エマニエル夫人」)ではそのように描かれてはいません。
私が今作で最初に決めたのは、“エマニュエル”に力を取り戻し、彼女を自身のストーリーの主題にすることでした。だから、本作を1974 年公開の映画のリメイクとは考えていません」

そして、過去の「エマニエル夫人」シリーズとの対比で、どうしても注目されがちなセクシャルな表現についても次のように語っている。
「原作の冒頭のエロティシズムに関する長い議論に興味を引かれました。エロティシズムというのは、何を隠して、何を見せるかということです。1974 年の映画は見せることを拡大しようとするものでした。
しかし、いまの時代はインターネットやポルノグラフィがあり、見ようと思えばすべてを見ることができます。そういう時代でも、エロティシズムは物語の原動力になるのか? そう考えて、敢えて枠を設けるという異なる試みをしています。

隠されたもののほうが面白いと感じたので、観客にも『いったい何が隠されているのか』と積極的に映画に関わってもらい、ストーリーに協力してもらうことで、緊張感を押し出そうと考えました」
オードレイ・ディヴァン監督の頭のなかには、やはり過去の「エマニエル夫人」の存在はあったようだ。しかし、あくまでアンチなものとして捉えられており、新たな「エマニュエル」は、まったくレイヤーが異なる作品と言ってもいいかもしれない。
ちなみに、主人公のエマニュエルを演じたのは、「燃ゆる女の肖像」(2019年、セリーヌ・シアマ監督)や「TAR/ター」(2022年、トッド・フィールド監督)で、印象深い演技を披露していたノエミ・メルラン。作品にエレガントな輝きを与えながらも、意志の強さと脆さを兼ね備えた女性の複雑な心の動きを表現している。
ノエミ・メルランとオードレイ・ディヴァン監督との強力なタッグも、この作品のクオリティをさらに高めているようにも思える。「エマニュエル」は、日本では15歳未満観賞禁止の「R15」指定を受けているが、こちらのほうが1974年の「エマニエル夫人」より、一般映画として公開されるのにふさわしいかもしれない。
連載 : シネマ未来鏡
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