まもなく、一定の年齢を迎えた女性社員の退職が相次ぎ、理由を聞くと「社長のようにはなれません」と。「そんなことないよ、あなたも頑張れるよ!」と激励したら、「なりたくないんです」と……。衝撃でした。その言葉で初めて、性別問わずさまざまな働き方を望む人がいることを認識しました。
最近、企業の役員をしている同世代の女性たちが口々に言うんです。「結局、ガラスの天井は私たちだったのね」。誰もが私たちのように仕事だけに打ち込めるとは限らないのに、そこに気づかず、次世代の女性たちを委縮させてしまっていたのかもしれません。
ダイバーシティ推進には経営層のコミットが大前提。一方で、女性の側──特に管理職の人は、同じ女性にもさまざまな価値観の人がいることを理解すべきです。そして、多様な働き方を認め合う文化を醸成してほしい。それらの要素が揃って初めて、ガラスの天井が破られると思うのです。
私は3年前から経団連のダイバーシティ推進委員長を務めており、企業の大きな変化を感じています。最新の調査では、経団連会員企業の役員の女性比率は15.6%で、着実に増えている。ダイバーシティは企業にとって成長の源泉という理解が広がりつつあるからでしょう。特に海外の投資家は企業の非財務面にも注目しています。ダイバーシティに注力しているかどうかは企業の株価をも左右するのです。
英国では2010年、企業の役員に占める女性比率を3割にする「30%クラブ」という取り組みを始めました。開始時は12%でしたが、8年で30%を達成しました(注)。オックスフォード大学の教授いわく、女性活躍は感情論やイデオロギーの問題ではなく「サイエンス」なんです。
注:ロンドン証券取引所に上場する企業のうち時価総額上位100社が対象日本でも、19年に「30%クラブ・ジャパン」を始動しました。英国で女性役員が急増したのは、投資家や消費者含め世の中全体の感覚が変化したことが大きいのですが、今の日本はその状況に似ており、この波に乗る必要があるのです。
今年6月、経団連は選択的夫婦別姓導入の早期実現を求める提言を公表しました。実現しても別姓を選択する女性はそれほど多くないかもしれませんが、「選択肢がある社会っていいね」という空気が広がることが大事。企業でも変化に抵抗する人はいるかもしれないけれど、戦っても得るものはない。戦わず「こうなったら素敵だね」という空気をつくることが求められていると思っています。
つぎはら・えつこ◎1966年生まれ。10代で現サニーサイドアップグループを創業。さまざまな企業や自治体などのPR・コミュニケーションのほか、中田英寿らトップアスリートのマネジメントなども手がけ、2018年に東証1部上場を果たす(現在はスタンダード市場)。国際PR協会会長(2022年度)、経団連審議員会副議長。