サイエンス

2025.01.05 17:00

固有のDNAを置き換えて、マウスを再現することが可能に

Janson George / Shutterstock

やがて、これらのメカニズムは多細胞生物に取り入れられ、特殊化した細胞や組織の発達を促すようになった。これらの古代遺伝子がマウスの多能性を促進できるという発見は、動物が現れるはるか前に、多細胞生物の遺伝的基盤が築かれていたことを示唆している。
advertisement

襟鞭毛虫が特定の条件下で多細胞コロニーを形成する能力は、細胞同士の協調行動の進化をさらに後押しし、多細胞生物の誕生を準備したのかもしれない。

この発見が、なぜこれほど重要なのか

ロンドン大学クイーン・メアリーと香港大学の科学者によるこの研究は、単なる技術的な驚異にとどまらない。進化、遺伝学、多細胞生物の起源に関する私たちの理解を覆す研究と言える。

襟鞭毛虫の多能性転写因子が発見されたことは、「これらの遺伝的ツールは多細胞生物が生み出したものだ」という長年の見解に疑問を投げ掛けている。つまり、単細胞生物から多細胞生物への移行が、まったく新しい遺伝子を必要とする飛躍的な変化だったのではなく、既存の遺伝メカニズムの進化的な改良だったことを意味する可能性がある。

この研究は、種を超えて共有されている古代遺伝子が、たとえ進化距離が大きく離れていても、基本的な役割を果たすことを浮き彫りにしている。襟鞭毛虫とマウスは、進化の過程で見ると約10億年もの隔たりがあるが、そのSox遺伝子とPOU遺伝子は、多能性を促す能力を保持している。この発見は、地球上のすべての生命を結び付ける遺伝的連続性を裏付けるものだ。
advertisement

その潜在的な用途は、進化生物学の領域にとどまらない。

古代の転写因子がどのように多能性を促すかを解明できれば、再生医療の新たなアプローチにつながる可能性がある。細胞の再プログラム能力を高めることで、損傷した組織の修復、変性疾患の治療、さらには新しい臓器の生成など、より効率的な治療法を開発できるかもしれない。

最後にこの研究は、進化そのものに対する見方の再評価も迫るものだ。複雑な形質を、まったく新しく発生したものと捉えるのではなく、進化は往々にして、単純さの土台の上に、既存の遺伝的ツールを再利用して複雑さを構築することを示唆している。

forbes.com 原文

翻訳=米井香織/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事