放棄した物かの判断は難しい、法と現実
前述のビニール傘や缶飲料などがよい例です。大した物でない数を含めると本当に多いのです。それをひとつひとつ記録を付けて保管するのはけっこう大変です。ホテル側の意見として正直に言わせてもらうと、その場で処分したい物も多くあります。しかしクレーマーなのか意地悪なのか、ビニール傘・缶飲料でゴネ始める人が現実にいることも悲しい事実です。そうした理由から、私の働いていたホテルではゴミ箱に入れられている物以外は忘れ物扱いとするしかありませんでした。
けれども、それがホテル側の普通の正しい忘れ物の対応だとは思い込まないで欲しいです。確かに、ゴミとして残していっただろうと判断できる物も、お客様にとっては大事な物の場合もあるかもしれません。しかしホテル側は決して、
「忘れた奴が悪いんだろ。文句言うな!」
みたいな態度では扱ってないわけです。だからお客様も
「あー、捨てられちゃっていても文句言えないかなー。わー、取っておいてくれたんだ、良かったー」
くらいな気持ちでいて欲しいのです。
チェックアウトの際に差し上げますという傘は忘れ物の転用であることもありますから、ありがたくもらっておきましょう。気を使って郵送返却などはしなくて大丈夫です。
遺失物(拾得物)において、法律上はどうなのか?というと、遺失物法というのがあります。これは長くて、非常に解りにくいので簡単に説明します。
改正遺失物法(平成19年12月10日施行)に「特例施設占有者」の規定があります。鉄道、路線バス等の事業者です。駅や電車内の忘れ物は、直接交番や警察署には届けないで駅員さんに届けますでしょ?
その「特例施設占有者」の鉄道・バス会社等は、落とし物を自分達で保管、売却、処分等をすることができます。
多くの落とし物や忘れ物を取り扱う百貨店、遊園地なども、公安委員会に申請して認められれば、「特例施設占有者」に指定されます。
では、大きなホテルも申請するかと言えば普通はしません。大きいと言っても遊園地や大規模百貨店ほど件数は多くありませんし、部屋での忘れ物は宿泊者情報から落とし主を特定し易いからです。
だから、小さな店舗施設同様ホテルも、本来は道端で拾ったみたいなことのように警察に届けなくてはなりません。じゃあ、何でもかんでも警察に届けましょうとならないのには理由があります。
まず忙しい。普通はそんな時間を毎度毎度とってはいられません。
次に、警察は受け取りたがらない。
これは非常に書きづらいのですが、「ホテル裏話」のブログですから暴露しちゃいますが、そりゃ警察だってそんな馬鹿正直にビニール傘とか下着とか大量に持って来られても迷惑ですよ。受け取りたくないでしょう。
「客室の忘れ物なら宿泊者の特定が出来るでしょ? そもそも落とし物(遺失物)じゃないよ。ホテルのお客様なんだからサービス業としてホテルが返してあげて下さい」
所轄ごとやこちらの態度でも対応に違いはあるとは思いますが、おおむねそんな感じになるのは理解は出来ます。
それじゃあと、「髪留め一個忘れてますよ」と電話したら、「要らない」って言われた後で、(勝手に処分しろよ。着払い郵送料を払ってまで百円ショップで買ったのを送ってもらう奴がいるわけないだろ)とか思われちゃうでしょう。
電話せず、処分すると忘れたころ電話が来て、「なんで勝手に処分したんですか?値段じゃないんですよ。あれは私にとっては思い出の品なんです」とかあったりして。
自宅電話番号に電話したら「電話のせいで浮気がバレタじゃないか。どうしてくれる!」とか、何度電話しても「警察には渡さないでくれ。処分も着払いもダメだ。近日中に取りに行くから!」と何回電話してもなかなか取りに来ない人とか。
ホテルの苦労もちょっとだけ解って欲しいところです。