キャリア・教育

2024.12.06 13:30

「新しいものは分析から生まれない」 佐宗邦威が語る、戦略デザイナーの神髄

佐宗邦威|戦略デザイナー

COLUMN|インタビューを終えて

ビジネスで諸刃の剣となる「人の感情」をどう導くか?

「自分の言葉で自社のストーリーを語れるようになること。これがゴールです」

戦略デザイナーの仕事のゴールとは何か?という質問に対して彼はそう答えた。

この日、私は東京の二子玉川公園内にあるスターバックスを訪れていた。佐宗氏の会社BIOTOPE創業の地であり、彼の書籍が生まれた場所。巨大な公園の川と木の周りには、複数のタワーマンションが建っている。無機質と有機質が融合したような景色から『直感と論理をつなぐ思考法』が生まれたのだと妙に納得できた。

さて、戦略デザイナーという職業。いったい何をする仕事なのか、いまいち想像できなかった。戦略コンサルタントなのか? デザイナーなのか? 彼は「実際に競合するのはデザインファームではなく、コンサルティングファーム」だと前置きしたうえで教えてくれた。

まず、この仕事が扱うものは「戦略コンサル」が扱うような「経営レイヤーの課題」である。一方でアプローチ方法はまったく違う。コンサルタントが論理やデータ中心なのに対して、彼は企業の歴史や社員の感情を扱う。その企業の創業の歴史や想い。いわゆるナラティブな物語的手法を通じて、課題を紐解いていく。

そして最終ゴールで目指すのは感情の設計とも言えるもの。それまで傍観者に近かったような社員たちが「自分の言葉で自社の未来に対してストーリーを熱く語り出す」。これが、戦略デザイナーが「勝った=納品成功できた」と思う瞬間なのだという。

確かに、新規事業の立ち上げ、あるいは組織変革のリアルな現場でいちばんの武器にもなり、最大のボトルネックにもなるのは「人の感情」だ。特に中小・中堅企業の場合、ひとりの感情のブレが大きな影響を与えるケースも多いだろう。
 
戦略デザイナーは、この「感情」をナラティブアプローチで徐々に温めて、加速させていく。こういう仕事なのだろう。

面白い映画や物語を見たとき、ストーリーの序盤で主人公は孤独であることが多い。一方で物語が進むにつれて周囲が感化され、次第に仲間や味方が増えていく。そして物語のピークに達したとき、最初は主人公の考えに反対だった人物さえ、「自分の言葉で自分たちのストーリーを語れる」ようになる。
 
この「感情のゲートウェイの設計と推進」とも呼べるようなものが戦略デザイナーの仕事の神髄なのだろう。そう思いながら、私は多摩川を後にした。


佐宗邦威◎1980年、東京都生まれ。BIOTOPE(ビオトープ)代表、チーフストラテジックデザイナー。東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科修士課程修了。P&Gでファブリーズ、レノアなどヒット商品のマーケティングを手がけた後、ジレットのブランドマネージャーを務めた。ソニー クリエイティブセンターでソニー全社の新規事業創出プログラムの立ち上げに携わった後、2015年に共創型戦略デザインファーム「BIOTOPE」設立。著書に『直感と論理をつなぐ思考法』『理念経営2.0』『じぶん時間を生きる』など。

北野唯我◎1987年、兵庫県生まれ。作家、ワンキャリア取締役CSO。神戸大学経営学部卒業。博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。ボストンコンサルティンググループを経て、2016年、ワンキャリアに参画。子会社の代表取締役、社外IT企業の戦略顧問などを兼務し、20年1月から現職。著書『転職の思考法』『天才を殺す凡人』『仕事の教科書』ほか。近著は『採用の問題解決』。

文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維

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