キャリア・教育

2024.12.06 13:30

「新しいものは分析から生まれない」 佐宗邦威が語る、戦略デザイナーの神髄

佐宗邦威|戦略デザイナー

北野:戦略デザイナーに必要な要件は。

佐宗:まずは「妄想力」。未来がこうなったらいいな、と普段から思い描くのは重要です。現実主義よりも理想主義に近い面があります。次に、その理想をかたちにする「表現フォーマット」をもっていること。僕の場合は文章やストーリー。時系列で人が動いていったらこんなことが起こっていくというストーリーですね。最低限、このふたつが必要です。

猛獣に囲まれた草食動物の時代を経て

北野:戦略デザイナーという仕事を選んだ理由を、あらためて伺いたいです。

佐宗:誰かのブレーンになりたいという思いが漠然とありました。中高時代は、大きな志をもつ劉備を構想と戦略で支える諸葛亮孔明に憧れたんです(笑)。大学時代にシリコンバレーに行かせてもらったとき、起業家のプレゼンを見るとエンジニア出身のトップとマーケター出身のナンバーツーの組み合わせが多かった。僕はテック系のスキルはないので、ビジョナリーを支える役になりたかった。そのためにマーケティングという武器が必要だと考えたんです。

北野:それでP&Gを選んだ。

佐宗:採用担当が森岡 毅さん(刀CEO)、上司が和佐高志さん(元日本コカ・コーラ副社長)、メンターが音部大輔さん(元資生堂CMO)です。

北野:佐宗さんは、そうした“P&Gマフィア”の人たちと雰囲気が違いますね。

佐宗:当時は猛獣に囲まれた草食動物の気分ですよ。違う軸で勝負しないとダメだと痛感したとき、ダニエル・ピンクの『ハイ・コンセプト』という本に出合いました。そこに書いてあったのは、デザイン、ストーリー、調和、意義、遊び……という普段は触れていなかったクリエイティブな要素。これは次の時代に必要なスキルだと確信しました。

北野:昔から興味はあったんですか?

佐宗:いや、絵を描くのは本当に苦手でした。でも、自画像を描くワークショップに参加したとき、ジッとものを見てデッサンする方法を教えてもらう「観察するモノの見方」でイメージ脳にアクセスできる感覚があり、一気に自分の使える思考が数倍に広がったと感じました。それまで自分の頭はいわゆる理性の部分しか使えてなかったんです。

北野:佐宗さんのキャリアでは、本との出合いが重要な役割を果たすことが多いようです。

佐宗:確かに、自分の思想はいくつかの本の組み合わせでできていると思います。シャーマーの『U理論』、ピーターセンの『学習する組織』、ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』もそうだし、学生時代に読みあさったユングや河合隼雄先生の本にも影響を受けました。それぞれはバラバラの分野でも、全部を統合して自分なりにアレンジして実践できた感覚があります。
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文=神吉弘邦 写真=桑嶋 維

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