13人のアドバイザリーボードを中心に有識者や昨年の受賞者などに候補者を推薦してもらい、編集部の審査によって、さまざまな角度で文化×事業を展開するカルチャープレナー30人を選出。若い世代を応援する意味を込めて45歳以下を中心とし、候補者は170人以上にのぼった。
「カルチャープレナー」とは、どんな起業家か。これからの可能性と広がりについて、改めて考察する。
カルチャープレナーとは何か
「カルチャープレナー」という言葉に耳なじみがない人も多いだろう。カルチャープレナーとは、文化起業家のこと。「cultural entrepreneur」という英国発祥の言葉を元に、日本の現状とこれからの可能性を鑑みて概念を整理した造語である。Forbes JAPANのカルチャープレナー特集では、文化やクリエイティブ領域の活動によって、それまでになかった革新的なビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる人たちのことを指すこととした。
「cultural entrepreneur」という言葉が誕生したのは、1990年代の英国トニー・ブレア政権時に、ブレーンのひとりであったチャールズ・リードビーターらによってまとめられた政策提言“The Independents : Britain’s new cultural entrepreneur”が始まりだといわれる(『Forbes JAPAN』2023年11月号の総論参照)。
その背景には英国における製造業の壊滅的な衰退があり、それに代わる新産業としてクリエイティブ業界への期待が高まった。いわゆる、英国初のソフトパワー政策である。この提言では、この新産業を支えるプロデューサーやデザイナー、研究者などのインディペンデント(独立系小規模事業者)たちを「新しい英国の文化起業家」と位置付けサポートしたことにより、経済成長率を4~5%も押し上げることが見込まれた。つまり、cultural entrepreneurは、社会構造が変化したときに新しい産業の担い手として登場したわけだ。
同時期に日本で刊行された書籍がある。元資生堂会長の福原義春による『文化資本の経営』(1999年刊、2023年復刊)だ。福原は1987年に代表取締役に就任した直後から、経営改革や社員の意識改革に取り組み、それまでドメスティックブランドにとどまっていた資生堂の世界展開を牽引した人物である。
彼もまた、当時の日本経済の「行き詰まり」を指摘していた。日本企業は対外的に商品の良さやものづくりの技術の高さで産業を発展させてきたが、そうした効率性と生産性だけを追求した「経済のための経済」の延長線上には未来が描きにくくなっていると語る。近代における産業は、経済活動を自然や社会と切り離すことでより自由にし、その「分離」自体をパワーにしながら物質的発展を加速させてきた。しかし、その分離は経済の自己破壊を生み、今や崩壊しつつあるというのだ。
「産業主義の経済活動は活発化すればするほど、社会や文化、環境を壊すように作用する」。そして「経済活動のあり方が従来の産業中心のあり方から根本的に変化していかない限り、破壊がやむことはない」。ゆえにこれからは、その乖離した経済と自然や社会を一体化させる方向にかじを切らなくてはいけないと福原は主張する。つまり、時代は「経済が人間や他の生命にとってよりよい自然や社会を再構成し、建築していくという新しいステージに入った」のだ。そして、その推進力となるものが、「文化資本」にほかならない。