北野唯我(以下、北野):戦略デザイナーという仕事を、どう説明していますか?
佐宗邦威(以下、佐宗):ざっくり言うと「理想の未来を描き、その道筋を創り出す伴走をしていく仕事」です。アメリカで学んだデザイン思考を、自分なりの解釈で、日本にもってきて実践していくうちに、次第に「ビジョンづくりとビジョンを具現化するデザイン」という独自のテーマが出てきて、ビジネス面でも回るようになり、職業として成り立つようになってきたと思います。
北野:具体的にはどのように進めるんでしょうか。
佐宗:例えば、海苔の販売で有名な山本山のリブランディングを手がけたときは、会社の歴史を紐解きました。祖業は江戸で初めて売り出した煎茶です。これからインバウンドの数字が伸びるというとき、売り上げの主力ではなかった商品のお茶を中心に据えた事業戦略のビジョンをつくり、若い顧客の声も聞きながら商品ラインを全部変えていきました。
歴史に基づくストーリーからブランドストーリーをつくり、付加価値を生む。そこに社員が誇りをもつと、組織に変容が起こっていくんです。自分が今やっている仕事と会社のビジョンの間に壁がなくなると、パチンとスイッチが入る。するともう目が変わって、行動も一気に変化します。パッと新しいことにチャレンジするスピードがどんどん上がって、良い循環が生まれるんです。
北野:その流れがひとつのストーリーのようです。
佐宗:自治体のビジョンをつくる仕事もあります。長野県の白馬村は近年インバウンドのスキーブームでにぎわうリゾートです。持続可能な村の姿を考えるため、住民と一緒にフィールドワークして、みんなで「未来の白馬村」の景色の絵を描きました。それぞれの絵を大きな壁に張り出して、最終的に一枚のストーリーに統合していくことをしたんですね。
今の時代、トップがこれをやろうよと決めてもそれだけでみんなが動く時代ではなくなっています。いろんな視点を備えた人が、ひとつの北極星を持ちながらも、それぞれのかたちで走っている状態ができる自律協働型組織の経営が必要になる。僕自身も、メンバーの一人ひとりからアイデアの種を引き出すことを重視します。それを社内で広げやすいナラティブ(物語の構造)にしたり、社会で伝わりやすいかたちに落としたりするんです。
北野:戦略コンサルとアプローチが違う。
佐宗:コンサルは科学的アプローチで、既存のものを分析し、結果を比較可能にして意思決定を選択できるようにする仕事です。でも、何か「新しいもの」が生まれるときは、誰かの「つくりたい」熱意があり、それをかたちにするプロセスが要る。分析から新しいものは生まれないと思います。