佐宗:自分の無意識のなかにあるイメージが夢となって現れて、それが表出して自己実現していく。これがユングの考え方。その無意識と意識の間が、ある種のクリエイティビティが生まれる場面だと思うんです。戦略デザイナーの仕事では、お客さんの内面にあるビジョンをベースにしながら、それを会社のビジョン、背後にある理念、新規事業のアイデア、社会や思想といったものにくっつけていきます。
北野:「私は何者なのか」という問いに一貫して関心があるのでしょうね。ビジョンメイキングも企業が「自分たちは何者なのか」を探る話じゃないですか。
佐宗:そう。団塊ジュニアの僕らは、ミスチル好きの「自分探し世代」です(笑)。就職のタイミングで日本型雇用が崩れ、自分でキャリアパスを考えなくてはいけなかった。「人生の午後」を語るユングは、僕たち世代のミッドライフ・クライシス(中年の危機)というテーマとも相性がいいですよ。
輝いている時期には自分が見えない
北野:著書の『直感と論理をつなぐ思考法』では、1年間の休業について書かれました。佐宗:うまく仕事をしている明るい時期は、あまりにも自分自身が輝いていて、自分が本当は何の光を放っているのかがよくわからないんじゃないか。
僕はそこから真っ暗になったんです。鬱になって何もできなくなり、会社にも行けなくなってしまった。そのとき、真っ暗な闇にちょっとだけ灯っている光を見つけて、これこそ自分が本当に心から求める光だったなと後で振り返って思った。その時期に出合ったのがデザインであり、色でした。人物画を描いたり、演劇をしたりするワークショップにも参加したし、英雄が旅をする本も見つけられた。全部、鬱だったときにギュッと集まったんです。
北野:まさに自分が主人公の物語ですね。
佐宗:それらが将来の自分の仕事になると想定していませんでしたが、独立してからの要素にすべてつながっているんですよ。一度、自分の内面の地下に降りて、暗い「ビジョンのアトリエ」にこもることも必要ですね。そこには自分のオリジナルなドットがあり、それらをつないでいけるのだと思います。
北野:佐宗さんの現在のビジョンは?
佐宗:日本が文化大国になったらいいな、というビジョンを描いています。自分の子どもたちに「未来の希望」をどう伝えようかを考えたとき、日本が滅茶苦茶ユニークで、ライフスタイルや生き方、考え方が世界から尊敬される国になればいいなと思いました。きっとそうなれるし、それをどう実現させるかを日々考えています。それが最近の夢ですね。